......の無い

康太はそんな風に言ってくれる教授を
うれしくは思ったが、少しいぶかった
それに、自分からは遠い存在の人だからこそ
こんな込み入った話をしてしまったのだ
実際に姉なんか恥ずかしくて、会わせるなんて・・・

「どうかな、もちろん、こんな話を聞いたことは
内緒にするし、君のお姉さんを興味本位で見たい
なんてことじゃないよ
ただ、僕も恥ずかしい話をしてしまえば
この小説にはモデルがいるんだ」

「モデル?」

「うん、これは僕自身の恋愛小説で
このヒロインの翔子は僕の唯一愛した人で
そして、僕の前から消えた人なんだ」

康太は小説の中のヒロインのことを
初めて姉に結び付けてみた
そういえば、姉が家に帰る前に母と同じような仕事を
していたとしても、きっと、母とは違っていただろう
そんなことを思う


姉はどんなに忙しくても傍らに本を置いている人だったし
塾の問題なんかでも英語や国語は
間違ったところを見て、的確な指摘をしてくれた
そして、歴史の知識は康太の受験用の暗記では
太刀打ちできない造詣の深さだった