......の無い

正二には母親も父親もいなかった
風俗街の暗いカーテンの裏で生まれた
母親はそのまま消えてどこに行ったかもわからない
父親はもっとわからない

この風俗街に来た有象無象の人間たち
まともな生まれではない人間
まともな世界では生きていけない人間
やむにやまれない事情でやってきた人間
そんな男や女の手で育った
この世界から出たことなど一歩もない

しかし、反対に考えれば
3,4歳の頃からスポーツを始めてオリンピック選手になる人間
生まれるときからクラッシックを聞いて楽器をはじめ
有名な音楽家になる人間
歌舞伎の家に生まれて初めからその家を継ぐことが決まっている人間
それといっしょだと言ったら失礼なのかもしれないが
そういうことだ

その、正二にミキはさんざん言われたのだ

「ミキさんは合ってないから
この仕事、やめたほうがいいよ
頭がいいからここでもうまく立ち回れるけど
その、頭、もっと、ほかに使うべきだよ」

そう言ってたし、あの、自分の会社を任せるまでに
信頼してくれた社長に太鼓判を押してくれたのも
正二だった