その先

その男がどこの誰かは知らない

今考えれば、27、8の男だったのではないか

白い古い長袖のシャツ

作業ズボンに黒い長靴

どこの村の若いもんかは知らないが

私がふらふらと山や村の道を歩いていると

よく見かける人間だった

鎌は持っていても

誰もがなんの注意もしないし

うちの親も、どこの誰で怪しいやつだとは

話していなかった

話題にも上らないくらい、その男が

鎌を持って歩き回ることは日常だった


もちろん、村の誰もが

安全な人間だと分かっていた

今なら、きっと、

大騒ぎになるところだろう


でも、私は誰もいない山に囲まれた

農道で1人の時に出会うと、怖かった