悪魔が来りて・・・
早苗さんは子供が欲しかった
でもそれだけは許されず
本妻の家の近くに、こじんまりとした家を買ってもらい
毎年、祖父と温泉旅行に行っていたのだが
子供が生まれると、何かとややこしくなるからと
祖父はそれだけは本妻の祖母に固く約束していた
だから、私を育ててほしいと言われた時は
飛び上がって喜んだそうだ
私がいたから、祖母も早苗さんには何も言えなかったらしい
孝樹はコーヒーを静かに持ってきてくれた
「静ちゃん、ミルクと砂糖、もう、入れてきたよ」
「あ、ありがとう」
そう言って受け取る
孝樹は本当に優しい
「早苗さんは、今、東京に行ってるんだって?」
「そう、恵比寿に行きつけのエステがあって
二か月に一度は一週間、東京に行ってるのよ
お洒落な人だから、東京が大好きなんだけどね~」
「静ちゃんが学生時代は、一緒に行ってたの?」
私は大学が東京のお嬢様学校だったから
四年間、代官山に部屋を借りていたのだけれど
早苗さんは一緒には住まなかった
東京にたまに出てくるのは好きだけど
ずっといるのは嫌なんだそうだ
でも、友達がいるでもなし、すぐに寂しがって
電話をかけて来るのは閉口したものだった
一日おきぐらいに長電話をしたがるから
無視して出ないでいると、長い手紙が来たものだった