逃走

しばらくそのアパートで大人しく暮らしていると

突然、チェリーが来た

 

「おばあちゃん、この部屋かわいい~

なんか食べるものある?

お腹すいたんだ~」

 

「何しに来たんだい?

お父さんに怒られた文句でもいいに来たのかい?

お腹すいたって、朝ご飯は食べてないの?

学校は?」

 

その辺りをうろうろしながら、家具を撫でまわし

 

「これ、すごい、かわいい~

うちもこういう家具にしてもらおうっと!

パパには何にも言われていないよ!

パパはいつだって何にも言わないの

学校は行かないよ、つまんないんだもの」

 

「この家具はマホガニーって言ってね、

汚い手で触るんじゃないよ

最近の子はすぐに『かわいい、かわいい』って

ボキャブラリーが少なすぎるね

あんたんちの母親が揃えた安っぽい家具と

一緒にしないでおくれ」