発達障害の母
私はたまにしか見かけないこの女の子が好きだった
田舎の高校三年生、
私の親戚の子たちは
親戚と言っても田舎のことだから、ずいぶん血が薄くても
親戚というのだが
どの子も残念な子だらけだった
地元の普通科高校か農業高校に通っていて
卒業したら地元に就職するってことで、この村の神のように
ありがたがられている
もちろん、若い人に残ってもらうのはいいことだ
でも、彼ら彼女たちはここにいるのが、一番安全だから
この村にいるのだという
役場や農協なんかに就職したければ
地元の偉い親戚のおっちゃんか誰かが
手をまわして試験の結果は何とかしてくれるのだ
これは、地域活性にもなるからと
偉いさんたちの中では暗黙の了解がある
そして、子供たちの親は何かと貢物を持っていくのだ
現金は動かないにしても、その偉いさんに
何かと忖度する構図は出来上がっている
発達障害の母
田舎のお婆さんのこういう目は
たいがい間違いない
母は知的なことや、世の中の常識はまったく
わかっていないが
性に関しては、まず、間違いない
うちの横には田んぼが二枚ある
その向こうに、母と同い年のおばあさんが住んでいる
立派なこじんまりとした家のつくり
うちのようにやたら安っぽい派手な家ではない
私がこの家を出てから、この村に帰ってきたとかで
村の人たちや母はよく知っているらしいが
私は全く知らない
その家の前に、よく世田谷辺りの中古住宅にあるような
若い世帯が住む家があって
そこは、そのおばあさんの娘の家らしい
もちろん、結婚をしていて、私と同い年くらい
この人も私は全く知らないのだが
夫と子供二人、高校生の女の子が上で
下が中学三年生の男の子
妊娠しているんじゃないかというのは
その高校生の女の子だ
ミキのママ友
発達障害の母
あの頃は自分が世界で一番不幸だと思っていたし
母から逃げることばかり考えて
村の人間はすべて、子供から大人まで
母の子供である私を軽蔑して可哀そうだと思っている
そう、考えていた
しかし、こうやって大人になった目で見ると
本当に犯罪の温床だ
私が東京に出たばかりの頃の
池袋や鎌田、そして、新宿歌舞伎町
あのあたりよりも猥雑で平和や緑
そして、美しい空気を隠れ蓑にして
人は人を憎んだり、許したりしている
友君がここに生まれた時から50幾つまで住んでたことは
みんなすっかり忘れたように、話をしなくなった頃
うちの斜め前の女子高生を見て母が
「最近の若い女の子は歩く姿勢が悪いわね
まるで妊婦みたい!」
そう言ったときに、私ははっとした
ミキのママ友
発達障害の母
母の近くにいると
向上心や努力が全く無駄なものと思えてしまう
そして、母を取り巻く環境
私は小学校の頃からアガサクリスティーが好きで
その中でもミスマープル物が特に好きだ
イギリスの小さな村で、様々な事件が起きる
小説の中でもアガサはこんな平和な小さな村が
悪の温床であるなんて信じられない
そう、ロンドンの敏腕刑事に言わせているが
小学校の頃の私には
この村は平和で何事もない日々の連続で
マープルの村がうらやましかったのだが
その頃は何も見えていなかったのだ