ミキのママ友
それでも、悠人のか弱さはわかっていた
自分のような中卒で田舎から出てきて
必ず、東京の上位層くらいの人間になろうと
誓って、生きることに食らいついてきた人間からみると
どんなにお金を使い、どんなに親が心を砕いても
能力もなければ気合もない
高卒でどっかの販売員になるくらいが
せいぜいの人間だ
そして、親の無理な押し付けの期待が
ハーミンとやらに逃げさせてしまった
「ごめんなさい
速水が優人君の人生を下したのならば
謝るわ」
「いいの、そうじゃないのよ
わかっているんだけどね
優人、自身の問題なのはね
でも、何かのせいにしたかったの
本当は私が優人の心を無視して
やたら、頑張らせたせい」
ミキはこの時、はじめて殿村と友人になれると思った
ミキのママ友
「え?」
「速水は高校に入ったころから
勉強をして普通の人生を歩くのに
不適正な子だってわかったの
親族にちょっと、手広くネット系の商売をしている人がいて
その人に預けていたら
まぁ、ああいうネットアイドルみたいな仕事が
ピッタリ来たみたいで
私も最近は速水が忙しすぎて
会うこともできないわ」
長男がその速水がやっているという
バッファハーミンですっかりおかしくなったという話だったから
さて、これは手厳しく文句を言われると
身構えたのだが
「そう、そうだったの
あなたも大変だったのね」
殿村は息子の夢中になっているハーミンがどんなものか
はっきりとは知らないが
ほとんど風俗アイドルなのはわかっていた
それにさっきはハーミンに、はまったせいだと
言ってはみたが
そうではないことは本当はわかっていた
一生懸命、おしりをたたいて勉強をさせ
なんとか、評価されている大学に入った
発達障害の母
確かに、人の道を外れることをするのは
多くの人を傷つけるのかもしれない
しかし、こうして母のそばで暮らしていると
母自身は自分は間違いのない村人の手本のような
人生を送っていると思っているし
他の口うるさいおばさんたちも
私は全く間違っていないというような顔をして
偉そうにしている
でも、本当は人数の問題なのだ
村の半分以上が盗人ならばそっちのほうが正しいのだ
おばさんたちで知的障害のある若い男を
なぶりものにしたことなんて
みんなでやったのだから悪いことでも何でもない
そんな風に村では物事の良し悪しが決まる
友くんの家は都会からやってきた
古民家好きの若い人にあっという間に売れて
畑や田んぼも、村の誰かが買ったらしい
この村から出て、まともになろうとして
頑張った、私の『まとも』っていったい何だろう
そう思わずにはいられない
発達障害の母
友君のことはしばらく村を賑わしたが
奥さんが農家を全て捨てて
子供と村を出て行くことで
静かになった
誰もが友君を責めて
うちの母も
「小さい頃から五十数年間
この村で、とってもいい子だったのに
何か物の怪がついたんだろうね」
まぁ、それは正しいのかもしれない
しかし、『物の怪がつく』というのは
比喩ではなく母は心からそう思っている
親戚のおばさんが脳腫瘍で入院した時
村の誰かから聞いた九州の山奥深くで
お祓いを生業にしている変な
占い師のところに行って祈祷してもらった
手術が成功したのは
その占い師に自分が五万円お供えしたからだと
村中に触れ回って喜んでいた