発達障害の母
そんな話をしていると
友君の奥さんが真っ青な顔をしてやってきた
「うちの人
ここにいるんじゃないの?」
もう必死の形相だ
「え?いないよ、なぜ?」
すると
「だって、いつも、あの喫茶店で
2人で会ってたでしょ!
うちの人からお金巻き上げたのも
あんたでしょ?
三ヶ月前から支払い、何もしてないし
通帳も印鑑も土地の権利書も
全部持って出てる!
村のみんなからあんたが帰って来た時から
あんたには気をつけろって言われてたのよ
早く出しなさいよ!」
村の噂には尾鰭がつく
悪気をまぜると面白くなるから
話す本人が思いつく適当なスキャンダルを
一緒に話す
すると、それを聞いた人が次の人に話すときは
それが本当となって噂になったりする
発達障害の母
「まぁ、その女の人と別れたくないし
奥さんともうまくやりたいって
言うのはわかったけど
お金の方をなんとかしないと
2人ともにいい顔するのは無理じゃない?」
と、私のは理屈通りのことを言ってみたが
ケロとネコはニヤニヤ笑うだけだし
2人とも貸せるお金なんか持っていない
その日から1週間くらいして
朝のご飯を母親と一緒に食べていると
母が
「あんた、なんか知らない?
今朝、その向こうの田んぼの草切りに来ていた
本家のおじいさんが
友さんがいなくなったって言ってたよ」
「え?昨日、畑で仕事していたのはみたけど」
「そうかい?夕べから帰ってないんだって!」
発達障害の母
田舎とは不思議なところだ
不倫、浮気、私生児、万引き
借金、朝の味噌汁の具が気に入らないなんて理由の夫婦喧嘩、子供のテストの点
どんなことも悪いことはすぐに
意地の悪い噂になる
なのに、そこには面白がるだけで
憎しみはなく、人間はどうしようもない
生き物だというのをみんなで許しあっている
たぶん、それはいいことなんだろうけれど
私にはできない
それは私がこの村を出てから長いから
というよりも私の性分のようだ
そして恋人へ
お金にあかせて、二十歳だとかなんとか
ごまかしてホストクラブに
出入りしてたんですけど
ホストだってプロだから
実はわかってはいたんです
でも、彼女、あの美貌でしょう?
お金がなくなってきたら
ホストたちの取り合いになって
今回刺されたホストが
レイプまがいに犯そうとしたみたいなんですよ
ホストが客の女を自分の贔屓にする方法ですけど、彼女、処女だし
そんなつもりはなかったから
刺しちゃったみたいなんですよね
まぁ、正当防衛も成り立ちそうな案件なんで
心配しなくても大丈夫ですよ」
そう、聞いて康太は優未の病院に
飛んで言った
あの時、自分の気持ちなんかに
振り回されて、まだ、中学生の
優未を遠ざけるべきではなかった
そう唇を噛み締めた