おばさんであること

行ってみようか?

 

明美は少し考えた.

自分は恋をして

それに振り回されるタイプではない

堅実な生活、人に後ろ指刺されない生き方

そんな物を叩きこまれている

恋なんて一時の物

そうしっかり教育された

そしてあきらめたあの人・・・・

満里奈や美也の話に触発されたのかもしれない

明美の初恋はピアノの調律に来てくれていた人だった

あれは高校の頃だった

半年に一度、母から明美に譲り受けたグランドピアノ

その調律に来てくれていた坂の上

あの頃はただひたすら、その日が楽しみだった

ボーン、ボーンと音が居間に鳴り響き

用もないのにソファに座って聞き入る

母が父に

 

「あの調律をやってくれている若い人

あなたの知り合いの紹介ななんですって?」

 

「ああ、知り合いの話では悲劇のピアニストだったらしい

10代のころからその才能は稀有なものだったらしいけれど

お金のない家に生まれて、

コンテストに優勝するには癖が強すぎて

留学するのもままならずにいた頃

交通事故にあって、あろうことか指をつぶされてね

ピアノは断念したんだそうだよ」