それは初めて聞く話であったが
ミツホも人間の本質は十分わかっていたから

「そう、それはすごいわね
そんなことなら、
私早く知り合いになりたかったわ
あなたの気持ちもわからなくはないけど」

そう言いながら、今まで自分が憧れて来た
沢村教授の小説の世界が
現実に現れたようで嬉しかった

康太はそんなミツホを見ながら

「確かに人間の多様性の中に
文学があることを思えば
うちの家族の生き様はそのまま文学かもな
でも、その中にいるもの達の苦悩は
厳しいんだよ

姉さんが速水をあの世界に送り出す辛さは
僕には嫌になる程わかるよ」

確かにミツホにもそれはわかる
ミツホの実家では
夫は同じ大学出身の弁護士で
夫の姉は大学教授の妻
そのことだけで満足していて
それから先はいくら親でも絶対に話せない