.....の無い


「私みたいなものが恐れ多いわ
うちのような人間がうろつくような場所じゃないから
この洋服代は、大学入ってからの教科書代にしなさいよ」

「姉さん、何かわけありなんじゃないの?」

「え?何のこと?」

「だって、前に、あの大学のイチョウ並木は素敵なのよ
大学に入ったら恋人を見つけてあそこを二人で歩けるんだから
頑張りなさい!なんて言ってたじゃない
うちのようなものがうろつく場所じゃないって感じじゃないくらい
よく知っているじゃん」

ミキの頭の中に沢村との初めてのデートが鮮やかに思い浮かんだ
それを振り払いながら

「テレビか何かで見たのよ」

「ふーん」

結局、ミキは入学式には行かなかった
康太が大学に入って充実した毎日を送っている姿を見ているだけで
幸せだったから

そんなある日、康太がゼミの合宿から真っ青な顔で帰ってきた