......の無い


逃げるように電車に飛び乗った
そして、まっすぐに自分の家のある駅に降りた
家を出て以来、ここで降りたことはない

あいかわらず小汚い駅で
確かに、昔と違ってコンビニやファミレスはあるが
小汚さは相変わらずだ

駅から歩いて15分
駅に近いさびれた商店街を抜けると
さびれた飲み屋街がある
そこも抜けて路地をくねくねと入っていく

ミキは誰かに会おうとか
家を見ようとか
そんなことを思ってここに来たわけではなかった
たぶん、もう、跡形もなくなっているだろう
その場所だけを見に来たつもりだった

でも、その古い家はあった!
半分、傾いている
玄関の扉のガラスは昔と同じように
ガムテープで張られていた

玄関の前には百均ででも買ってきたのか
小さなプラスチックのバケツに
雨水がたまっている

誰か違う人が住んでいるのだろう
ミキはそこにたたずんで、その家を見た
沢村の、あの家を見て沢村とはやはり別れなければならない
それを確固たるものにするためにここに来たはずだ