逃亡

東京ってところはやたら人の多いところだ

こんな中から、なぜ、ピンポイントに私なんだろう

田舎ではこんな好き放題物を言う私も

そうとう気を付けていた

だって、村の誰もが私の住んでいるところを知っていて

恨まれたりしたら本当に大変なのだ

だいたい、みんなそこに気を付けながら噂話をしたり

顔には出さないように穏やかに付き合おうとしたり

絶対的に隠せることは隠す

私はその村で生まれて、村の中で夫と親の言われるままに

結婚したのだ

だから、村に対して愛着はあったのだ

それに、うちの家は代々、村の相談役のようなもので

誰もが一目置いてくれていたから

住みやすいと言えば住みやすかった

 

夫が近所の若い嫁に手を出した

そして、夫は60はとっくに過ぎているのに

その嫁は夫について行った

村の人間にとっては驚異的なことで

夫は少し英雄のような立場だったし

私のほうは同情されたりして、村にいてもつらい立場ではなかった

だいたい、その若い嫁の夫ってやつが

村の嫌われ者だった