逃亡
コロコロと引く派手なキャリーケースに
はみ出すほどの服、本人も着れるだけ着ている
真っ赤に泣きはらした目
父親の後姿をじっと見ている
バカな親子だ
「入りな!私は自分の部屋が自分好みのセンスじゃなきゃ
ストレスになるから
あっちの和室はやるから、あそこに荷物置いて来て!
そこ意外に自分の荷物やごみを置いたら追い出すからね
後で、布団は買ってやるよ!」
息子からはすぐにラインが来て
お金は振り込むからよろしくお願いします
そう書いてある
若い女と逃げた夫がくれた
最後のラインにそっくりだ
『ごめん』の一言もなかった
チェリーが荷物を出している間
私はとっておきのラプサンスーチョンを入れた
チェリーは涙目で出てきた
長いこと使ってなかった白雪姫のカップ
砂糖とミルクを入れてやると
黙って手をだし、口元に持っていく
「あ、美味しい!」
少しチェリーを見直した
ラプサンスーチョンの味が初めてでわかるなら
少しは私の血が入っている