発達障害の母
戦争経験者の年寄りの教師は
脳溢血で倒れて、あとからその若い松尾先生がやって来た
村の若い女たちは用もないのに
小学校に来るようになった
その頃の田舎の小学校は
教師の 宿直というシステムがあった
松尾先生が宿直で泊まった朝は
朝ごはんのおにぎりを持ってくる
村の若い女の子や
女子高生でいっぱいだった
いっぱいだったと行っても村のことだから
三、四人なのだが
その中の1人が母だった
父が家を出る時間は朝の七時半
隠して作ったであろうおにぎりを
アルミホイルに包んで学校に持っていく
小学校は家から近くて
四、五分の距離だったから
私や弟に朝の茶碗洗いや洗濯物干しの
お手伝いを言いつけて家をそそくさと出て行った
その時には必ず、赤い口紅をつけていた
その赤い口紅がおぞましかった