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発達障害の母

「あの頃、村中で心配してたんだ

この村から初めて大学に行く子なのに

あんな奴に捕まって

どうなるんだろうって

あいつの女グセの悪さは有名だったんだけど

あいつの叔父さんが博多あたりから来て

ヤクザみたいな奴だったから

誰も何も言えなかったんだ

こう言うことって普通なら

母ちゃん同士でなんとなく注意したり

村の力あるばあちゃんがしゃしゃり出て

話したりするのに

あ〜ちゃんちって

母ちゃんが、まぁ、あれだろう?

だから、まさかおじさんに言うのもなぁ

2週間くらいの間だけで

あ〜ちゃんは東京の大学に行くからって

みんな、ハラハラして見てたんだ」


自分のことで真っ赤になって

ああ、やはり、私が知らなかっただけで

母のことはみんな知っていたのだ


「そしたら、あ〜ちゃん

すぐに立ち直って、

しっかり東京に旅立って行ったから

村中で安心したんだ」


発達障害の母

友くんとひとしきり思い出話に

花を咲かせていると

さっきから農協の若い子達が

引き上げて言った

最後に残った、さっきの若い男の子が

お会計をしながら


「おじさん、今月は菜の花が最盛期で

大変だろう?

でも、おじさん地の菜の花は

特によく売れるから頑張ってな!」


「よう!ありがとな!」



そう言って出て行くと


「あいつ、あ〜ちゃんが大学に行く前に

付き合ってたあいつの子だぜ」


友くんは意味深な笑い顔で

教えてくれる


「え〜なんで知ってるの?

ってか、似てるなぁ〜とは思っていたけど

やっぱり?」

発達障害の母

そこに新しい客が入って来た

農協の若者たちに声をかけると

農作業用のつなぎの格好で

カウンターに座る


あっと私が気がついた時に

向こうから


あ〜ちゃん、母ちゃんの世話に帰ってるんだってな!このくらいの時間にはここによくコーヒーを飲みに来てるって聞いて、俺もたまにはコーヒーをでもと思ってよったんだよ

年取ったなぁ〜!」


「あ、友くん?

失礼な、あんただって禿げてるじゃん!」


友くんは小学校の頃

身が軽くて、この村では一番の運動神経だった。

親は川から石を切り出して商売をしていた気がする。小柄でちょこちょことしていた印象で可愛い印象の子だった。

結構仲が良くて、遠足の時なんかは

おやつを分けあったりした思い出がある


発達障害の母

私は春休みの2週間あまりで

その男の子に徹底的に弄ばれた


それからは東京での生活しか知らず

田舎に帰ることもなかったから

ただただ、苦い思い出としか言えないが

今、数人の農協の若い職員だという

その中の男の子の一人が

あまりにもその、彼に似ている


でも、彼は今考えると

昔の典型的な不良で

他の村の悪い奴らとつるんでは

バイクに乗り回して馬鹿なことをしていたし

脳みそなんか絶対になかったと思うほど

馬鹿だった

多分、中卒ではあるけれど

学力は小学校三年がいいところだったし

まともな思考回路はなかった


村の人間関係なんかを考えると

彼の子供が曲がりなりにも

あんなに爽やかな

農協の青年になっているとは思えない

発達障害の母

その、男の子は

中学の卒業式が終わった頃

村の塗装屋に遠い親戚だと都会から

やって来たらしい

その頃には私は親戚の下宿先に

行っていたから、それから三年間の

彼の行状は全く知らなかった


「君、この村の人なの?」


そう言って近づいて来た

全く男子など見向きもしない

中学からの六年間を送って来た

私には、その標準語と背の高さだけで

夢中になるには十分だった

彼は女の子には相当慣れていたし

後から村の噂で聞いたところによると

村の女の子は総なめだったらしい


発達障害の母

合格はしたが

身の丈にあった高校ではなかった

多くは県内から集まった優秀な

家柄の良い子供達で

特に遠くから来ている子は

お金の余裕もある子たちが多く

ひたすら勉強についていく三年間だった

それでも、なんとか同じ学年の中でも

恥ずかしくはない程度の大学に合格はしたのだが

三年間、勉強以外の思い出もなかった

田舎に帰る余裕も時間もお金もなかった


そして、その春に私は地元に帰って来て

初めて恋をしたのだった

周りからは村で大学に行く人間など

全くいなかったから

特別扱いされ、中学の時の友人たちからは

少し遠巻きに見られていた


発達障害の母

その男の子の顔を見て
何かがよぎった
そして、馬鹿だった昔が蘇った
それは大学に入学する前の春だった気がする

高校時代、私は親戚の家に下宿していた
私の中学からは電車で一本のところに
学年の半分は行く高校があったのだが
私はそこに今の家から通うのが
嫌で仕方なかった
その頃は母にはなんの興味もなかったが
その母をなんともできない父に
苛立っていた
「なんであんな母親と結婚したの?」
父と二人っきりになるとそう言うのが
私の口癖でもあった
父はなぜかは一言も言わず
「ま〜我慢しろよ」
としか言わなかった
その頃、母に一番苦労していたのは
父なのに、それに結論を出さない
父も嫌いだった

中学の時にはただただ、勉強して
今の環境から抜け出したいと思っていた

それで、偏差値は上だが実家からは
かなり遠い高校を選んだのだ