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発達障害の母

雅ちゃんの話聞いたかい?

首くくって死んだんだってさ

罰当たりなことに

あのお宮さんでさ

村で折角、お金集めて建て替えたのにさ

あそこで自殺なんかしたんじゃ

誰も寄り付かなくなるよ

子供も作れない女の最後はあんなもんさ」

 

母の言葉に普段なら

余計なことは言わないで!と叫ぶのに

妙にシビアな感じを受けた

母に子供ができたいなかったら、どうだろう?

私と弟がいなかったら、どうなっていたんだろう

父は早くに亡くなった

もしかしたらこの村では生きていけなかったかもしれない

そう、考えると

母自身ももしかしたら、わかっているのかもしれない

雅ちゃんは勉強はできなかったけれど

ずるがしこいことは学校でも有名だったし

ちゃんと、イケメンの男を捕まえることもできた

母の脳みその数倍もある、まともな人間の女だ

だけど、みじめな死を選んだ

ほんとうは知能なんて必要ないのかもしれない

発達障害の母

ネコはすぐに同意してくれた

 

「そうだな、ほんとそうだよ

雅ちゃんには雅ちゃんなりに貫きたい人生はあったんだよ」

 

「あの旦那、わざと子供作らなかったって噂だぜ

ひどい話だよなぁ

あそこのばあちゃんもすげぇけど

そんで、みっちゃんとこの後家が雅ちゃんの自殺を聞いたとき

思わず笑ったって話も嘘じゃなさそうだな」

 

「ああ、ヤクルトを配ってるヘイちゃんの奥さんが

一番に教えたんだよな

あの奥さんは正直者だから

意地悪く話を作ったりしないだろうから

その話は本当だと思うよ」

 

私はそんな話を聞きながら

髪は乱れて白髪が混じって

ジャージの上下のような服装で

しわもかなりできているあの雅ちゃんの中に

夫から離れたくないって一途に思う

ロマンチックがあると思うだけで

悲しくなった

発達障害の母

「東京で借金こさえて帰ってきたとか

離婚されて逃げて帰ってきたとか

やっぱり、あの母親に似ているから馬鹿なのだとか

あんなやつのために泣いてやることはないよ

嘘ばっかり村中に流してたんだから」

 

私はやっと、涙が止まり

少し笑いながら

 

「その、最後の言葉は嘘じゃないかもよ

やっぱり、母親に似て馬鹿なのは確かだわ

雅ちゃんのことは、嫌な人だったってことはわかってるし

それが小学校のころから変わってないっていうのも

悲しいけれど

私が帰ってきてすぐに、ここで会ったとき

すごく嬉しそうに旦那さんとのなれそめを話してくれたの

それだけは雅ちゃんの真実で

小学校のころから猥雑なだけの彼女が貫いた

唯一のことだったって思うと

なんだか、涙が出てきて仕方ないのよ」

発達障害の母

「それで、その足元に離婚届の紙が落ちていたんだ

もちろん、旦那のサインいりのさ」

 

ネコが

 

「それで、もめてるんだよ

お互い遺体を引き取りたくないってさ

俺が出て行って引き取って、何とか葬式出してやってもいいんだけど

それも、年寄りたちが、出しゃばらんほうがいいって言うし

まいったよ~」

 

私はそのことを聞いてかわいそうなあまり涙が出てきた

 

「あ~ちゃん、あいつは自業自得なんだぜ」

 

それはわかっている

私だって雅ちゃんは嫌いだ

でも、長年結婚していた旦那

子供はいないとは言え

みっちゃんちの後家といい仲だとは言え

それはないだろう

妹だってそうだ、何はともあれ、姉ではないか

そんなことをぐちぐち言いながら涙が止まらないでいると

 

雅ちゃん、村中にあ~ちゃんが帰って来てから

変な噂流していたんだぜ、そんな泣いてやんなくてもいいさ」

 

友くんが怒って言う

発達障害の母

私にとっては少しも興味のない相手で

あの時、ここで話した限りでは

小学校のころから全く変わっていなかった

そんなことを思いながらコーヒーを飲んでいると

ネコと友くんが喪服で入ってきた

 

「まいったな~

雅ちゃん、かわいそうにな~

誰も遺体を引き取りたくないって

特に実家の妹はすごかったな

葬式はそっちで出してくれって

うちが姉のために出すお金なんてない

あんたんとこの嫁だからねってさ!」

 

「え?どこで、亡くなったの?」

 

すると、ネコが

 

「あ~ちゃん村はずれのお宮、覚えてる?

古くて、子供たちが雨の日に集まった」

 

「うん、あの当時でものすごく古かった

あの階段の上の?」

 

「そう、あそこ、綺麗に建て直したんだよ

あそこにいた汚ねぇ、おっさん、死んだんだよ

20年位前にな」

 

昔、宮司ではないとは思うが、変なおっさんがいついていた

そのお宮に住んでいるというだけで

ご利益があると思っている年寄りたちが

食事を運んで生活の面倒を見ていた

その昔、私が小学生のころ

うちの母親なんかも、ありがたがって

白いおにぎりを三個ほど持っていかされた

そして、その冬、風邪をひかなかったら

あのおにぎりをあのおっさんに持って行ったからだ

そんなことをよく言っていた

私はそのころからあほくさいと思っていたのだが

発達障害の母

次の日、店に行ってみると

珍しく友くんは来ていなかった

 

「何かあったのかしら?」

 

コーヒーを頼みながらマスターに聞くと

 

「あの、雅ちゃんが自殺したって」

 

「え?」

 

私は立ち上がって、行かなきゃと思ったが

すぐに、いったいどこにって思いなおした

この村にも戻ってきて、ここ以外にどこにも顔は出していない

それに、私は雅ちゃんの自殺を悲しんではいない

もう一度座ると

 

「知らなかったわ

うちは村の人の中ではハブられているからね」

 

マスターは

 

「いや、僕も新参者ですから

客で来ていた雅ちゃん以外は知りませんからね

どうしようもないんです

まぁ、ここだけの話ですけど

彼女、あんな感じだったでしょう?

仕方ないっていうか、実家に帰ったって

あの妹の話では居場所はなかっただろうし」

 

発達障害の母

「楽しかった?良かったわね~

子供のころからの親友っていいわねぇ~」

そんな風に機嫌を取ろうとする

私にしてみれば、今、話を聞いてみれば

友くんもネコも私が子供の頃悲観していたような

ひどいことは思っていなかったし

かなり同情してくれていたの知ったのだが

当時はただただ、母親がコンプレックスで友達なんかいなかった

今でこそ、多動や漢字が覚えられないのは発達障害のせいだし

大人でも普通に社会生活を営んでいても、何かと障害がある

人間はいるって認識されてきているのだが

昔は本当にそんな風に考えてくれる世の中ではなかった

 

まぁ、今でも雅ちゃんはそんな目でしか見ないから

彼らほどかわいそうだとは思えない

親友だとか簡単に言わないでほしい

そんなことを考えつくほどの能力はないと

わかってはいてもいらついてしまうのだ