誘惑の花

彼女は小太りのおばさんとなり

気軽に冗談を飛ばしたり、夫への不満を

面白、おかしく話したりして、高校のころとは

ほとんど同じような明るい笑顔だった

でも、京子は彼女と話していても

少しも楽しくなかった

それは、この数十年の間、職場では戦いの連続

家では子供たちの教育を必死でやって来た京子としては

彼女と自分の間に大きな山が出来たのか

それとも深い谷が出来たのか

なんだか、分かり合えない不思議な空気出来ていた

お互いの話、高校の頃の他の友人の近況なんかを話して

もう、話すことがなくなったときに

 

「あの、ほら、中学のワルだって言ってた」

 

「あ、俊哉のことでしょう!

あれはビックリしたわね~」

誘惑の花

俊哉はいったいどうしているんだろう?

田舎のいいお父さんになっているのだろうか?

ずっと、この田舎を出ることなく

国道沿いにできたホームセンターでパートをしている

友人と食事の約束をした

 

「京子!ご主人亡くなったんですって?

大変だわね~

でも、こうして郷里を旅行だなんて余裕ね

お子さんはもう、就職したの?

どうせ二人ともすごいところに入ったんでしょう?

うちなんか上のお姉ちゃんは、高校時代から付き合ってた

同級生と19で結婚して、すぐに子どもを産んで

また、すぐに別れて、今、家にいるのよ~

孫は可愛いけど、これからずっと、うちにいるんだったら

働いてほしいわ」

 

「あら、下のお嬢さんは?」

 

「あの子は大阪!ネイリストになるとか言って飛び出したまま

音沙汰もなくてね~」

 

二人の子供のこういう将来、田舎ではよく聞く話だ

誘惑の花

 

むなしさに取り付かれたように

仕事を辞めた、そんなときに夫が倒れた

脳卒中で夫はあっという間に亡くなってしまった

それからは、何をするでもなく日々を過ごしていたが

自分の中で気になっていることは

やはり、解消しておこう

夫の死を目の前にして、このまま死んでしまうのは嫌だった

 

長いこと帰っていなかった田舎に帰った

田舎は驚くほど変わっていなかった

実家の両親は他界していたし、親せきも疎遠にしていたから

泊まるところもなかった

一駅離れた町にならビジネスホテルがあったから

そこに泊まって、タクシーで移動しては

昔を懐かしんだ

誘惑の花

職場では男女機会均等であっても

力が同じならば、子供を持っている主婦は不利

同じくらいの子供の成績なら

お金を持っていなければ不利

そんな悔しい思いをたくさんして子育てを終えた

 

夫は子供たちの立派な成長に満足しているし

それなりの地位にも昇りつめている

もちろん、京子の能力がそんなものをものともしないほど

高ければ問題ないのだが

それはそれで、能力はしれているのだからしかたがない

そして、過ぎ去った日々を思うときに

俊哉が目の前にちらついてきたのはなぜなんだろう

誘惑の花

長い戦いのむなしさ

それこそ真剣に頑張って、子供の幸福を願ってきたのに

結局、東京育ちのお嬢様たちのママ友には勝てなかった

これから、その友人たちの目標は

いかに素晴らしい結婚を刺せるかなのだ

もう、そんなことはどうでもいい

子供の結婚を親が決められるほど

金持ちでも、名家でもない

そうでなければ子供の恋愛や結婚に口を出すのは

悪趣味でしかない

そんな話題しか出てこない、友人関係はうんざりしていたし

仕事もこれ以上の出世は望めない

こここそ、修羅場の後と言う感じだ

地方出身者で高学歴の人間は命を懸けて上を目指す

男たちは仕事に燃えていれば、子供の教育などに

全く興味は持たない

ただ、稼いだお金で有名私立中学に入れるよう

妻にやらせるだけだ

誘惑の花

京子も必死だった

東京で仕事をするには能力があればよかった

でも子育てはそう言うわけにはいかない

とにかく、子供の頭の良さとお金が必要だった

夫は小学校から私立出身

それでも、夫を裕福に育てた親は他界しており

財産は夫の兄弟三人で分けたが

マンションを買ったらおしまいだった

 

夫は大学まで3流の私立のくせに

子供たちは公立でいいなどと言う

地方の田舎出身の京子には東京で暮らしていく以上

子供の教育は一番のやりがいだった

子供たちはおかげで二人とも頭がよく

中学からは有名私立中学に入り

塾や学校で知り合ったママ友の中では最高だった

でも、それも大学までだったそこからは際限もなく普通の頭の子供にお金をかけた家の勝ちだ

京子は二人が無事に就職すると

自分は所詮、地方の田舎出のお金のないおばさんだと気が付いた

ママ友達は子供に数千万もかけて医者にしたり弁護士にしたり

満足な子育ての終わりを迎えていたが

京子にはむなしさしかなかった

そんな専門職に就けるようなお金はなかったから

誘惑の花

俊哉はすっかり田舎のいいお父さんになった

結婚前を知っている田舎の人間は、みな驚いた

『美奈ちゃんがしっかり者だからな』

そう噂していた

俊哉自身も、もともと不良とかになっている気はなかった

何かあれば、人は嚇せと!と教えられ

どんな手を使っても

自分の思い通りに生きなければ、貧乏人は食べていけない

父からも母からもそう教わっていたから、そうしてだけで

結婚して、そんなことしなくともお金は仕事さえしていれば

十分入ってくるし

美奈子のまっすぐな性格は気持ちがよく

子供もそれですくすく育っている

そんな立派な家庭の父親だと思うと

もう、馬鹿な真似する必要もなくなったのだ

美奈子の家の両親は容姿に入った俊哉に優しく

真面目な人たちで、俊哉の変貌ぶりを

心から喜んでくれた

俊哉は今は京子とも無理に会うことはない

心から幸せなのだから

それに、美奈子は風俗で遊ぶ分には怒りはしない

男なんてそんなものだと思っているからだ