おばさんであること

息子の徹がまるで言うことを聞かない

夫はお前のせいだと言う

そうなんだろう

専業主婦で息子を育てること以外には

何か忙しいようなことはない

徹は一人っ子だ

夫はもう一人、女の子が欲しいと言ったが

明美は子供は徹一人で十分だと思っていたから

子供は作らなかった

徹の小さなころは海外生活がほとんどで

コミュニケーションが取れない明美にとっては

楽しいものではなかったが

三人での海外生活は日本では味わえないほど

贅沢なものだったから日本に帰りたくはなかった

お手伝いさん、ベンツ、潤沢な食費

普通のサラリーマン家庭に育った明美には

夢のような暮らしだった

おばさんであること

美也は今は子供の中学受験がすべてだった

朝6時に子供を起こして、計算と漢字の練習をさせる

自分は5時には起きて

ポテトサラダや唐揚げ、夫用のヘルシーなサラダに

焼き魚、そして三人の子供たちのお弁当

冷凍食品なんかもってのほかで

揚げ物も空いた時間に自分で作っておいて

冷凍庫にたくさんストックしてある

野菜はすべてご当地物をネットで取り寄せている

今度の中学受験は真ん中の子供だから

慣れてはいるのだが、長男ほどは頭がよくない長女

少し心配だ

どうして、小学校受験をさせなかったんだろうと

悔やまれる

おばさんであること

この世のすべてが家の中にあり

中心は家族のことだけ

濃い知り合いは子供のママ、いわゆるママ友

学生時代の友人もほとんどママになり

ママ友というスタンスは変わらない

そうじゃない、昔の友人は

社会での立場が違ってきていて、話をしていても面白くない

だから、会いたいとはあまり思わない

 

満里奈はそんな専業主婦が大嫌いだった

近視眼で話は子供のことか夫の愚痴

そして、常識の権化

大嫌いではあるが友人には多い

 

 

 

発達障害の母

母は祖母がそんなこともわからなかったとは

思いたくなかったのだろう

母が祖母に持っていた嫌悪感は

祖母を自分と同じか自分より上に置いておきたかった

だから腹が立つし、嫌いになる

僕が今、祖母と話していると

母に嫌われた日々をたのしそうにしゃべる祖母がいる

僕ですら憐みをもって祖母に優しくするのに

母は全く対等な立場から嫌っていた

祖母の長い人生の中で、そんな風に接してくれる人はいなかった

誰もが

「ああ、この人は可愛そうな人だ

この人が何を言っても、まともに聞く必要はない」

そう思われて生きてきたのだ

それがただ、一人母だけは同じ立場の人間だと

反発してくれた

祖母にそんな詳しいことはわかっていないが

そんな喜びが言葉の端々にあふれている

 

 

発達障害の母

僕は祖母を知っている

確かに普通よりかは知能はかなり低い

でも、あの能力しかないのに母を育てたことを思うと

ものすごく頑張ったんではなかろうか?

そして、祖母の知識の低さから考えて

幼児に対する性的虐待がこの世にあることを

知ってはいなかっただろう気がする

母はやはり自分の母親のことである

どんなに悪く思っていても、どんなに自分の母を

見下し、バカにし、そして毛嫌いしていても

そのままの祖母の能力を認めたくはなかったのだろう

冷静に考えて客観的に見れば

あの祖母が今やっと、ニュースになっている幼児に対する

性的虐待を今から50年近く前に

認識できていたとは思えない

発達障害の母

祖母も苦労したことであろう

ちょうど、時代的に若い者のすることには

口に出さないのが、いい姑だと思われ始めた時代

近くに親族で住んでいるが

お互い一戸建てで離れ

祖父はその頃の多くの男と同じように

子育ては女の仕事だと手を出さない

発達障害だった祖母が母を育てるときにどんなことがあったのかは

今やわからないが、母はそこに自分の不具の根本がある

そう信じていたようだ

母が六歳の時に弟が生まれるのだが

その面倒はほとんど母が見て育てたらしい

僕はこの辺りを読むのがつらいのだが

この弟が生まれる前に今でいう幼児に対する性的虐待

母は会っている

それも祖母は見て見ぬふりだったらしいのだが・・・・

発達障害の母

祖父が祖母に嫌気がさすのは

時間の問題だった

しかし、その頃のことだ

離婚なんてそう、簡単にはできることではない

それに、父親と義母に勧められた

義理の妹との結婚を蹴った

経緯もある

新築の家すら建ててもらっている


それから5年間

2人の間には子供もできずに

祖父はただただ、自分が若くバカだったと

悔恨の念に駆られた


そして、母が生まれたのだ

母は片耳が聞こえず

片方の足が脱臼していた

それがわかったのは1歳になった頃で

祖父の兄の嫁や義母は

きっと、祖母のせいだと触れ回った


その辺りは定かではないが

その兄の嫁や義母は

母を不憫がって可愛がった

『あんな母親から生まれて

可哀想だ』

そのこともあってかもしれないが

母は一層祖母が嫌いになるのだ