康太の深淵

「僕はね、長い間、妻が嫌いだった
いや、今もだ
そして、妻の作品のようなミツホを
可哀そうに思っていたんだ
もっと、早くに離婚してミツホは僕が育てればよかったと
そう、思っていたんだ」

「え?」

「でもね、それなりの会社に勤めていて
上司の親族関係で妻をもらったし
なにしろ、妻は真面目でね
愛だの恋だのではなくて
女は年頃になれば結婚するもの
一度結婚すれば、どんな夫でもその関係は全うするもの
そして、私を愛してはいないのに
愛す努力をして、そして母親として
全力で子育てをする
僕が離婚の原因にしたい事情なんて一つもないんだ」

康太は不思議な気持ちでその話を聞いた
まるで、自分の母とは別の生き物だ