全く何もないまま

小学校に上がったころからの記憶しかない
その前はひたすら煌めいたライトや
薄暗い笑い声、そして、泣き虫の女のひそひそ声
そんなものの中で小学校に上がる年になって

小屋の中の一番年上の江さんが

「ちょっと、はがき来てたよ
区役所から
小学校には上げないとダメなんじゃない?
法律違反とかになるんじゃないかね」

はがきには健康診断の日が書いてあって
正二が

「えっと、学校の体育館で日にちも書いてあるから
一人で行ってくるよ」

客引きの爺さんが

「保護者ってやつがいかないと
問題になるんじゃないか?
正二の母ちゃんなら、美代だろう?」

すると、美代は困ったように

「いつなの?何すればいいの?なんかもらえる?」

正二が

「ついてくるだけでいいよ
僕がわかっているから
えっとぉ、爺ちゃん、美代さんに
ほら、あのお気に入りの若いお客
あのお兄さんをつけてあげてよ」

「おう!お安い御用さ」

「ほんと、あの、ジョニーさんをつけてくれるなら
正二のお母さんやるわ」

これで、法律に違反せずに小学校にいける
正二はホッとする