街の灯り

驚いたことに『やまびこ』はまだあった
そこの年取ったマスターにミキは見覚えがあった

「あ、翔子ちゃん、年取ったなぁ!」

いきなりそう言われてミキは真っ赤になった
ミキが風俗で働いていたころのお客だととっさに思い出す
翔子という名前は今では一番思い出したくない名前だ
何事もなかったかのように

「うちのおじいちゃんが若いころ
ここで働いていたらしいんだけど知らないよね」

歳をとって普通の奥さんになったミキには興味なさそうに

「ああ、その頃とオーナーが変わってるから
店の名前は変わってないけどね
でも、あそこに座ってるじいちゃんが長いこと
ここの常連だから、何か知ってるんじゃない?」

そう、言ってお客に頼まれたハイボールを作る
昔、風俗にいたってことは
こういった水商売の業種の間では
何のこともないことなのだ