.....の無い

「沢村さん!
お兄ちゃんの大学の教授なんでしょ
小説読んだ!
ってか、正二兄さんが、読めって言ったんだけど
お姉ちゃんのことだと思うよ
あのヒロイン!
正司兄さん、何度も読んでた
そして、これ書いたやつ絶対、ミキさんに惚れているって
そう言ってたんだよ
正司兄さん、うらやましそうだった
俺がこいつなら速攻かっさらって嫁にするって!」

ミキは正司の気持ちが痛いほどわかった
正司は沢村に対してミキが感じている
世の中の格差をすべてわかっているのだ
そして、自分がこの世界から離れられない
そんな人間であるから、ミキに惚れていても
それを言葉には出さなかった
最後に薬中に殺されるような人間が
ミキとはやっていけないことは十分すぎるほど
わかっていたのだ

ミキも沢村に対してそう思っている
いくら風俗の世界から抜けたとしても
いくら、まじめにひっそりと暮らしていても
あの母親を一生背負わなきゃいけない自分は
彼とはやっていけないと思っていた