.....の無い

沢村の大ファンで
彼に会うためにこの大学に入った
そう、言っても過言でも無い
みつほは康太と付き合うようになって
何度かミキのところにも
遊びにくることが多くなった

その質素で静かな生活
贅沢なものは何も無いけれど
趣味のいい部屋
優しい笑顔、美味しい料理
康太が姉のことを大好きなのも
うなずける

そのみつほは沢村の小説を
発売以来、毎日読んでいる
ほとんどの場面をそらで音読できる

そのみつほがミキの家に遊びに来ている

「ミルクティーがみつほちゃんは
好きだったわよね」

そう言って丁寧に暖かく入れたミルクティー
差し出すそのカップを持っている手が

沢村の小説の中にある

『彼女の差し出す珈琲の
紙コップが少し揺れている
その美しい白い手にその紙コップが
僕が好きで仕方がないあのコーヒーカップ
変わってしまう』