おばさんであること
その声はあの頃とは少しも変わらない
坂の上のものだった
振り返ると彼が立っていた
「あ、お久しぶりです」
明美は真っ赤になってしまった
彼は歳をとった
髪には白髪が混じり
皺もそれなりにある
でも、あの頃のように心臓はときめいた
しかし、その瞬間
自分はあの頃のような女子高生ではなく
もう、50はとっくに過ぎたおばさん
「なんだか懐かしくてね
この間から何回か来てくれたよね
すぐにわかったよ」
2人は近くのカフェに入った
「母が、今はここでピアノを弾いてらっしゃるって評判を聞いて教えてくれたんです
あの頃、私、フルで先生のピアノ
聞いたことなかったんですけど
調律し終わったピアノで
少しだけ引いてくださるピアノ
心に沁みました」