発達障害の母

「東京のあ〜ちゃん

水を得た魚のように生き生きしていて

アパートの前でちょっと見かけただけだけど

ちょうど外車で彼氏が迎えに来ていて

遠くから見ても、この村の呪縛から

解き放たれたように見えたって、

それを見たときに田舎の医者の息子なんか

あ〜ちゃんには何の興味もないだろうな

そう思ったって」


私はそれを聞いて学生時代を思い出した

その頃は自分と他の学生、東京に住んでいる人間達とのの格差を知って

とにかく焦っていた

自分の能力なんてたかがしれているのを知っていたから、自分が東京で一気に格差を埋めるには結婚しかないと感じていた

それならば同じ大学のおぼっちゃま達をだますしかないと、焦っていた頃のことだ

アパートまで外車できてくれるのは、有名デザイナーの息子ではあったが、、愛人の子だったと、思い出す

高校で誰彼お構いなく
男漁りを始めたからさ
それも放課後、学校外でとかじゃなく
学校の休み時間に
男子トイレでだってさ」

ミツホが言葉を失っていると

「うちの女どもと来たら
そんなのばっかり
僕は女の子は欲しくなかったんだ
姉さんと沢村教授が結婚して
女の子が生まれた時
あの二人の子供だ
環境だって完璧なんだ
sexがない人生なんて考えられない
そんな女の子が生まれるはずがない
育つはずがない
そう、期待したんだけど
結局、そういうことさ

僕ら二人の子供が
一体どういう子供に育つのか
恐ろしすぎるよ
もちろん、沢村教授のように
君のように、人間としてそれは
恥ずかしいことではないとは
理屈ではわかっても
母、姉、妹、それが全部
世間の常識外だったら
いい加減自分の子供は欲しくないよ」

発達障害の母

でも、みっちゃんの母親が言っていることが
子供心にもそんなに的外れなことではない
そう思っていたから
みっちゃんとは犬と人間ほど
隔たりがあると思っていた

それがみっちゃんの恋の対象が
私だったなんて
驚く以外にない

人は恋愛をするにしても
自分と同じステージの人間を
相手にするのではないだろうか
わたしは高校では誰も好きになんてならなかった
県内でも医者の子、社長の子、立派な家の子
そんな子だらけの学校で
自分の生まれ、頭のコンプレックスから
女の子の友人ですらできなかったし
男の子を好きになるなんて思ってもいなかった
高校を出てこの村で中卒の彼を追っかけたのは
そうできる、同じレベルの人間だ
そう感じたからかもしれない

「東京に来ていたんだったら
声をかけてくれれば良かったのに」

ミツホの両親が
康太のその言葉を聞いて
安心して謝りながら帰ると
ミツホが何か言おうとする
康太は遮るように

「君がこれからも
僕と暮らしていこうと
この子供と一緒に
暮らしていこうと
そう、思ってくれるんなら
何も話さなくていいよ
僕はこの子の父になりたいんだ」

ミツホは小声で

「一緒に暮らして行きたい
あなたが許してくれるんなら」

康太はにっこり笑って

「君は僕の母のこと
姉のこと、知ってるよね
速水はどうして両親の元を去って
みぃの所に行ったのかというと

ミツホは今は寝ていると言う

話を聞いてみると
子供の血液型がちがうそうだ
康太がO型、ミツホもA型なのに
子供はAB型だと言う
両親はまだ、ミツホの話は聞いていないが
これは明らかにミツホの罪
そう、涙ながらに訴え
こんな娘に育てた覚えはないだの
何か理由があるだの
平身低頭

「ああ、大丈夫です
彼女が別れる気がない限り
僕は気にしませんし
いや、かえって良かったと思うくらいです」

その言葉に両親は驚愕の表情を浮かべる

それから一日、ミツホが目を覚まし
その話になった

康太が入って行くと

「ごめんなさい」

ミツホは康太に謝る
康太はそんなミツホを優しく撫でながら

「君が別れたいのならば仕方ないけれど
僕はこの子を一緒に育てたい
僕らのこどもだとして」

発達障害の母

その頃、みっちゃんが学校では群を抜いての

優等生だったのだが

国語や本を読む数ではダントツに私で

みっちゃんだって私がいなければ

作文だって立派なものだったのだが

そればかりはいつだって学校の代表は

私だった

それが気に入らず


『作文を書くのが上手なんて自慢にもならない

文を書いたり小説を書いたりする人は

たいがい気がおかしくなって

自殺するじゃない』


みたいなことを村中に触れ回っていた

私はお腹の痛いのを我慢して


『もう大丈夫です

一人で帰れます』


そう言うと一人で家に帰ったのだが

途中痛くて仕方がなかった記憶がある

家の中のことが常識だった

幼い私は、村の人の母に対する態度は

なんとなくしかわからなかったが

この時はすごく傷ついた


発達障害の母

「そんで、告白するつもりだったけど

言えないままだったってさ!

結婚相手は親が決めた人だったから

あ〜ちゃんに、どうしても

言いたかったみたいなこと言ってたからな」


私はびっくりしたが

もう、30年近く前の出来事だ


「でも、無理だよ

あそこの親が私を嫁になんか

するものですか」


それは、まだ、私が小学校の頃だった

学校でお腹が痛くなって

教師が自分の車で

星田医院に運んでくれた

みっちゃんの母親は看護師だったのだが

父親の医者が私に


「お母さんに来てもらおうか?

大したことないけどね」


そう言うと

私の目の前でその看護師の母親は


「あ〜ここの母親は気がおかしいから

呼んでも、薬にもならないし

この子もあの母親の子なんだから

ちょっと、おかしいのよ」


そう言った