逃亡
チェリーはうんざりしたように
私の部屋に来ると
「ねえ、あの女、何母親面してるんだろうね
バカみたい!」
私の横の部屋がチェリーと赤ん坊の部屋だから
ドアが開いていれば、筒抜けだ
もちろん、美佐子さんはそのことも計算済みなんだろう
「あんたのお兄ちゃんの智久が赤ん坊の時にね
あんたのママは一生懸命だったんだよ
お腹の中にいるときからクラッシックを聞いたり
生まれると、山ほど絵本を読んでやってたよ
それに、外国の絵本もあっちのおじいちゃんおばあちゃんから
たくさん送って来てね
英語でも読んであげてたよ」
「ふ~ん、私にもそうしたの?」
「しなかった!」
「え?」
美佐子さんは私がこんな話をするのも
計算していたのかもしれない
「智久はよくできたから
幼児教室に行っても幼稚園に行っても
鼻高々!
小学校のお受験の時に生まれた、チェリーにかまっている暇は
なかっただろうからね~
だから出来がこんなに違うんじゃないのかい?」
こんなこと言う気はなかったし
私自身はそうは思っていなかったが
チェリーみたいなタイプは徹底的に甘やかされている
少しはきついことでもいわないと
子供を産んだくせにロクな母親にならない気がした