康太の深淵

母のことでは答えが出ていたのに
今はミツホに子育てができるんだろうかと心配になる

毎日、マニュアルのような家事のやり方では
くつろげないし、今、ミツホがやっている一つ一つが
彼女にとってかなり負担なのはわかる
これに子育ては彼女にとってはもっと、覚えるべきマニュアルが増えて
その取捨選択ができない彼女には酷なこととなりそうだ

家庭を作るという楽しみなしでは
ミツホといるのは苦痛で仕方がない

ミツホは本の通りにやりたがるから
今日は食べたくないとか、風呂は後で入る
なんて融通は聞かないのだ

そんな日々が過ぎていく中で
話がまったく合わなくなっていくことに気が付いた
ミツホは料理の本の通りに作った食事を
美味しいとほめてもらいたくて仕方なく
康太はできる限り、美味しいよ頑張ったねと声をかけるようにする

この作業に心から言葉を発することは一つもなくなった
料理は美味しいはずもなく、ただ、本の通りに出来上がってきているだけ
本に書かれていない、塩一つまみとかさっと洗うとかが
わかっていないからレシピ通りに作ってもおいしくない