全く何もないまま

家はあるのに奥さんが怖いからって
月の半分はここで寝泊まりしている爺さん
でも、正二はなんとなくわかっている
正二を一人ぼっちで寝かせるのが忍びないのだ

「しっかりしてんなぁ!
正二はきっと大したもんになるぞ」

そんなことを江さんに嬉しそうに言う

「やっぱり、あの大学生がお父ちゃんだったんじゃないかねぇ
ひろちゃんはだれが父親かわからんようなこと言ってたけど
あたしゃ、あの大学生だったと思うよ
大久保にある、ほら、立派な大学の
理科の研究とかする
だから、正二は頭がいいんだよ」

母親はこの小屋で正二を産んですぐに死んだ
妊娠しているひろちゃんをその頃のオーナーは
容赦なく客を取るために店に出していた
客も客でお腹の大きな女を指名する変態も多い
それでもひろちゃんは平気そうだった

正二はそれからここの仲間に育てられた