ひとつ先

もちろん、私にそのつもりはない

部屋を借りて、死ぬまでのお金くらいは

贅沢をしなければ十分にある

その上、年金ももらえる

嫁が一緒に暮らすのを

嫌がるに決まっているのに

やはり、私の息子は少し、バカだ


生まれてから一度も村を出たことはない

五人兄妹の真ん中に生まれて

村の中学を卒業した

父親が


「お前は計算ができるから

村役場の臨時職員に推薦してもらっている

嫁に行くまでは、そこで働け」


そう言われて、村役場で5年働いて

叔母の世話で農家の長男の

夫と結婚した

大人しいばかりが取り柄の夫は

今の息子そっくりだが

子供が好きで、息子を可愛がり

息子が東京の大学に受かった時、有名企業に就職が決まった時、泣いて喜んでいた