逃亡

門の前でちょっと、様子を伺っていると

反対側の道から、買い物袋をぶら下げた

夫が歩いてくるのに気が付いた

爺さんにしては背が高いし、相変わらず痩せている

チェックのシャツにズボン

田舎にいたころと全く変わっていない

私を見ると、手を振りながら

 

「やあ、元気そうじゃないか!

坊から連絡来てたんだ

東京に住んでるんだって」

 

息子を今だに坊と呼ぶ

この人はずっと、こんな感じだ

わたしはシズカの手前

 

「そうなの!?

あの子、何にも言わないからね~

でも、まさか、ここにいるとはね!」

 

全く知らなかったふりをした

息子私に話さなかったのは確かだけど

 

「かずさんも元気だよ

お茶でも飲む?」

 

その会話でシズカはこれが、私の夫と気が付くと

 

「あんたかい?

巴と駆け落ちした爺さんは?」

 

ものすごい勢いで詰め寄った

私は近所の手前もあるだろうと

すぐに家に入れてもらい、シズカを黙らせた

シズカはそんなこと聞きゃしないのだが

中に巴がいると思うと、旦那が明ける前に

扉を開けて、飛び込んだ