逃亡
美佐子さんは、すぐに頷いた
これは不思議なことなのだが
人間てやつは気が合うとか、一瞬にして
ああ、この人ならば・・・
そう思うことがある
私は美佐子さんと会ったときにそう言うことを感じ
それは美佐子さんもそうだったようだ
静かに自分用のコーヒーを淹れ始めた
美味しそうなコーヒーを美佐子さんがいつだって
気に入って使っているマグカップに注いだ
私はコーヒーは好きじゃないのだが
その香は深いことはよくわかった
「私の生まれは東京の下町
親は小さな和菓子屋を営んでいました
うちの和菓子は近所のお年寄りに評判だったし
近くのお茶の先生が注文してくれたり
中学になるころまでは、それなりに裕福だったんですが
世の中はイチゴ大福とか
だんだんハイカラな和菓子が流行って来て
うちもそれに押されて、店が立ち行かなくなってきたんです
父は代々和菓子屋のお坊ちゃん気質で
商売を立て直そうなんて考えもしなかったみたいです」