その先

「会ってみたら、物のわかる人で

自分が悪かった

反省している、子供は自分が育てよう

そう言ってくれたんだ

でも、私たちも育てたかったから

父親として、何か必要なときには

手伝ってもらうことで、話は決まったんだ

もともと、奥さんとは

うまくいってなかったんだろうね

離婚して、子供もいなかったから

それからは、何かと一緒に子育てしてね

頭のいい人だったから

中学受験の時には泊まり込んで見てくれたな」


信行もうなづきながら


「うん。でも、病気になってからは

一緒にいるのも辛かったよ

僕にはどうしていいか

わからなかったからね」

その先

「僕、おばあちゃんにもあったんだ

でも、僕のことを『汚らしい不倫の子』って言って、目も合わせなかった。

まぁ、そんな人だからお母さんが動けなかったんだってよくわかったし、父さんには

すごくよくしてもらった。

今でもたまに会うんだよ」


私は驚いて信行を見た

父親もニコニコ笑っている

澄子ちゃんは驚きすぎて

もう、たおれそうだ

父親が話を引き取って


「母さんからはあの男に復讐してくれって

名前や住所、当時働いていた

造園の会社を渡されたんだ」

その先

「ごめんなさい

お母さんに逆らう勇気も

気力もなくて

お父さん、あの時、

私はついていくべきだったのね」


「もう、過去のことは言うなよ

あの時はおばあちゃんがお前に無理を言って

どうしようもなかったくらいわかっている

今考えたら、

婆さんも母さん、そっくりだっただろう」


すると、信行も


「僕も大学生の時に随分調べたんだ

逃げる猶予は物理的にはあったとしても

精神的に拘束されていると

身動きできないらしいから

母さんのせいでもなんでもないよ

ただ、父さんたちも手をこまねいていた

わけではないんだ、ずいぶん、おばあちゃんには意見したらしいよ

でも聞く耳を持たない人だったから」

その先

「色々、母さんも大変だったね

おばあちゃんが最悪な人なのは

父さんから聞いたし

小さい時は、本当の母さんのことは

知らなかったけど

中学の時にしっかり説明してもらったし

亡くなった母さん、

あ、育ててくれた母さんだけど

凄くいい人で、僕はたまに遠くから

母さんを見るだけで

十分だったんだ」


私は邪魔にならないように

寿司の準備をしたり皿を並べたりしながら

それで十分とは、まぁ、

そんなものかもしれない

そう思いながら澄子ちゃんをみてみると

もう、涙いっぱい浮かべて

倒れそうだった


その先

「妻が不妊症でね

あなたの孫に当たるのならば

ぜひ育てましょう

そう言ってくれたから、

うちで育てることにしたんだ

もうすぐ帰ってくるから」


そう言っている間に

澄子ちゃんによく似た

30前後の男の人が

寿司桶を抱えて入ってくると


「母さんが来てるって?

お寿司、こんなんで良かったかな」


父親は嬉しそうに


「彼が澄子の子供で、高校の先生をしている

信行だよ

あ、信行はすべての経緯を知っているし

何度も遠くから澄子を見ているからね」


驚いて倒れそうなのは澄子ちゃんだ

その先

父親はすぐに思い出した


「ああ、あの花ちゃんかぁ

あの頃からあいつ、おかしかったから

随分迷惑をかけたね

それでも、ずっと友達でいてくれたのか

ありがたいことだ」


いろいろ事情を詳しく話したかったが

子供の話を聞いて

澄子ちゃんが動揺しているので

私が話を聞いてみる


「本当に変わった女だった

澄子に赤ん坊が生まれて、

すぐに病院に呼ばれたんだ

そして、『こんなふしだらなことをするのは

あなたの血だ!黙って赤ん坊をひきとれ!』何を言ってもダメなことは十分わかっていたから、そのまま連れて帰ったんだ」


 その先

長い年月、会わなかった二人の会話は

落ち着いていたし

その中に深い喜びを感じた

わたしからすると、

いい大人同士になった時に

こっそり会ってもよかっただろうに

そう思うが、ここの母の強烈さは

それすらさせないほどだったのかもしれない


しばらくして父親が


「息子のことじゃないのか?」


そう言った。

澄子ちゃんもうなづいた。


父親は嬉しそうに


「もうすぐ帰ってくる

ちょっと、ラインするから待っていなさい」