誘惑の花

京子は彼のお墓に行ってみた

その日が命日であることも知らなかった

ちょうどそこには、田舎のおばさんがいて

墓の掃除をしていた

親戚の人かしらと思いながら

買ってきた花と水をお墓の側に置くと

その人は振り向いた

 

「あ!」

 

それは俊哉の妻である美奈子だった

白髪の混じった、短くパーマをかけた髪型

エプロン掛けで白い長靴を履き、ジャージのズボンの

小太り姿

でも、顔はあのころの面影が残り

丸くてかわいらしいおばさんになっていた

美奈子も遠い昔を思い出したのか

 

「あ、昔、あの国道沿いの喫茶店でバイトしていた方」

 

そう言って京子を見た

何と言っていいかわからず、頷きながら

 

「長いこと、こちらには帰って来なかったものですから

旦那様と娘さんの話を聞いて

お参りさせてもらおうと参りました」

 

そう言うしかなかった

狭い田舎のことだ

そんなに知り合いでなくても、墓参り位する人は

いるのかもしれない

美奈子は嬉しそうに

 

「まぁ、ありがとうございます」

 

そう言って、人がよさそうに頭を下げた

10年近く夫と不倫をしていた相手にだ

京子は穴があったら入りたかった