誘惑の花

「ま、奥さんは、その頃、入院してたからよかったけど

奥さんの親二人とも、けっこううるさいからね」

 

「結婚したの?」

 

それは、わかっていたことだけど

ショックだった

結婚している男に手は出せない

 

「入院って?子供?」

 

「うん。女の子が出来てさ!かわいいんだ」

 

俊哉はいったい何をしに来たんだろう

近況報告にわざわざ、東京まで来たの?

 

「それはおめでとう」

 

そう言った時には、もう、部屋の前まで来ていた

でも、帰れとは言えなかった

 

部屋に入ると、驚いたように居間をぐるぐるして回る

 

「すげえな~ここ一か月いくら?」

 

「20万円」

 

「え?今、自分、何の仕事してるんだっけ?」

 

「出版関係だけど」

 

「ふ~ん、何か知らねえけど

すごいんだな」

 

このマンションは賃貸ではない

福岡の独身の伯母の物で

叔母が空けてるのももったいないから

月7万で貸してくれているのだ

叔母は90を少し出ていて、痴ほう症も出ているから

弟である父親が管理している

最初は毎月払っていたが、今ではぐずぐずになっていて

ほとんど自分の物のように暮らしている

説明はめんどくさいから、20万と言ったのだ