誘惑の花

少し笑いながらマンションのエントランスに入ろうとすると

後ろから

 

「京子?何にやついてるの?

今の彼氏?楽しそうにやってるじゃん」

 

振り向くと俊哉だった

全く変わっていない俊哉

田舎で会っていた通り

作業着にペンキで汚れた運動靴

彼は京子に続いて、マンションに入って来た

敏夫のような遠慮は全くなかった

この、ずうずうしいほどの女を分かっている態度が

京子の大好きな俊哉だった

それでも、嬉しそうな顔はしなかった

だまって、エレベーターのボタンを押すと

 

「あれ?会いたかったんじゃないの?

だから飛んできたのに!

手紙隠すの大変だったんだから

これから、手紙くれるときは男の名前にしてよ

そして、汚い字にして!

今回はたまたま、俺が郵便受けから出したから

良かったようなものだけど」