誘惑の花

つまらない仕事

そう思いながらコーヒーを運んだ

ああ、この人は一か月に一度だけこの店に寄る人だ

京子は人の顔はすぐに覚える

 

「私が入ってから、三度目ですね

福岡あたりからの出張ですか?」

 

そつなく声をかける

 

「よく覚えてるね

うん、毎月検査に立ち寄るんだよ

この町で一番大きい工場があるだろう

あそこの本社から来てるんだけどね

ここのコーヒーは美味しいよ

検査と言ったって何やかや、ややこしくてね

お昼ご飯を食べた後のコーヒーはここって決めてるんだ

君がここに入る、数年前からね

えっと、京子ちゃん?でいいのかな?」

 

「はい、よろしくお願いします

頑張って美味しいコーヒーを淹れます」

 

田舎の喫茶店の女の子にしては気が利いている

片岡はここのオーナーと知り合いだったから

今度、会ったら褒めておこう

そうすれば、あの子の待遇もよくなるだろうからな

そう思いながらコーヒーを飲む

いつもいる自衛隊上がりの店長よりも

よほどうまく淹れるものだ