逃亡
「ねえ、今まで自分の思い通りに
生きたことなんかなかったんだろう?
こう、巴ちゃんは幸せになるんだし
これからは自分のために生きるんだよ」
そう言ってやると、心に響いたらしい
「ああ、それもそうだね
巴が幸せになるんだったら
余計な口出しはしないよ」
そう言って、嬉しそうに村に帰って行った
さて、これからの話だ
「あなたたちは、元のさやに納まったほうがいいんじゃない」
そう、寂しそうに、私たちが話しやすいようにと
席を立った
巴さんも心配そうに立ち上がろうとする
私は急いで
「あ、二人とも、ここにいてください」
そう言うと、旦那のほうを向いて
「私は今、東京で若い男と暮らしています
もう、村には帰らない
村の土地もすべて売り払ってしまったしね
そのお金は半分、あんたの通帳に振り込んでおくから
あんたはここで暮らしてほしい
それで、終わりにしましょう」
そう、さらっと言って、帰り支度をして
その家を出た
旦那もかずさんも何も言わずに黙り込んで
私はその間にさっさと近くの大きな県道にでて
タクシーを探した
巴さんが走って出てきた