逃亡
「巴さんはあんたにも連絡はしていないのかい?」
手塩にかけて育てたって本人は思っているけれど
何かと自分の希望通りにさせようとする母親だったのだろう
大人しい嫁さんだったから
この母親に逆らえなかったのだろう
「シカオのとこに嫁がせたって言うのはどうしてなんだい?」
「うちと小夜子さんの実家は遠い親戚になってね
あの人は女学校時代、うちの村のほうでは
見んあの憧れの的だったんだよ
しっかり者で美人で背も高くてすらっとしてたしね
私もずいぶん、あこがれたものだったよ
でも、頑張ってね、私の学年の一番は私だったから
小夜子さんはそのことをよく知っていてね
私の娘なら間違いないだろうって言ってくれたんだよ」
得意げにしゃべる
この薄汚いおばさんが人にあこがれる女学生時代だったとは
私はどんなに想像しても思いつかなかった
でも、あの小夜子さんが自慢の息子の嫁に欲しがったくらいだから
まぁ、そうだったのだろう