逃亡
それで、どうしたの?
そんな風に言い返そうと思いながら、やめた
だいたい、そういうものなんだ
小説やドラマなんかだと事件を起こす人間には
何にかちゃんとしたまともな理由があるみたいになってるけれど
それは違う
田舎の村でもおかしくなる奴には理屈なんかなかった
ただただ、悲しいとか
ただただ、一つの食べ物しか食べなかったり
誰かのわがままをひたすら我慢していたり
そんなことで頭の中の何かが切れてしまうのだ
「ああ、小夜さんもかわいそうだったけどね
すべての事の起こりは、どうしようもないことだったのさ」
「あんたのところに巴は来ると思っていたんだよ
まさか本当にあんたの旦那を好きだなんて思えないからね
でも、来ないし!家の中を見せてもらったけれど
あんたのところには何にもなかった
いったい何が何なのか、教えておくれよ
私は巴をどんなに、大事に育ててきたか
こんなことになるために嫁にやったわけじゃないよ」