おばさんであること

明美は彼とどうかなりたいなんて

思ってもいない

自分の人生のなかで唯一心ときめいた

あの時期を懐かしむような

そんな気持ちだ

ホテルのラウンジに聞きに行っても

彼が明美を覚えているはずもなく

彼も痩身の美青年だった頃は

もう遥か昔

今はロマンスグレーの伯父様になっている


今日は彼女たちの話を聞いて

心がざわついて仕方がない

彼のピアノを聴きたくなったのだ


コーヒーを頼んで

彼が弾くピアノを聴く

少しづつ心は落ち着いてくる

時間を見れば、もう、7時近くになっている


さあ、帰ろうとホテルを出たところで

後ろから呼び止められた


明美ちゃんだよね?」