おばさんであること
女子高生だった明美にとって十分すぎる
ロマンスの相手だった
その陰のある人生をいかにもと思わせる
暗そうで色白な華奢な風貌
真っ白なシャツから延びる
細い腕
そして、その指から聞こえる調律の音
もちろん、何かしゃべったりしたわけではない
ただ、焦がれ、一人悩んだだけだ
それが、ひょんなことから今の彼の消息を知ったのだ
実家の母とランチしたときに
「ねぇ、あなた覚えている?
あなたが結婚する前にうちに来てたピアノの調律師
Kホテルのラウンジでピアノ、弾いてるのよ
それが、どんな曲を弾いても物悲しくて
なんだか人の心を揺さぶるって評判なの
もう、何十年前になるかしら」
チラッとそんな話が出た
そして、明美は数度、そのピアノを聞きに行ったのだ