おばさんであること

慌てて入って来た満里奈の手には

今買ったばかりのコーヒー

そして、その席がちょうど二人の横で

見栄で履いているハイヒールが暗闇の中

絨毯に躓いてしまった

 

「あ・・・」

 

幸いなことに、アイスコーヒーだったが

二人の頭から思いっきりかかってしまった

それからは、もう、映画どころじゃない

とりあえず、映画館の待合室で

謝りながら綺麗に拭いてあげて

近くのホテルに部屋を取り、シャワーを浴びてもらった

美也も明美もそうしてもらうしかないほど

上から下までコーヒーだらけだった

二人がシャワーを浴びたりしている間

満里奈は近くのブティックで安いこざっぱりした服を買い

別にクリーニング代とタクシー代を渡した

 

「本当にごめんなさい

せっかくの映画、見られなくなっちゃって

チケットも新しく買いますから」

 

美也はその至れり尽くせりの対応に満足し

もともと見たかった映画でもなかったから

 

「あ、もう、十分ですよ」

 

そう、言ったが明美のほうはそうはいかない