不思議なことを数えれば

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「あ、父はね女に対してはひどい人間だったけど
教育者としては一流だったんだ
集団でたった一人のかけがえのない個性を教育して
ただ、つまらないバランスの取れた人間ができることを憂えていたんだよ
人は一人一人の子供に
全力で当たらなければならない
それが父の持論でね
僕は人から見れば、ひどい父だったしても
大好きだったし、父のおかげで、こうして研究者として
何とか名を成せている気がするんだ」

ああ、そういうことか
風俗嬢の自分をただ純粋に追いかけ、愛してくれている
それは、集団から生まれる、つまらない常識に縛られていないからだ

「そうね。でも、あなたのお父様は曲がりなりにも
教育者だったし、それなりの見識も持っていらっしゃったんでしょう?
あの子たちに、その、学校にやらない教育ができるのかしら」

発達障害の母

私は無意識のままに

手に持っていた本で母の頭を殴った

もちろん、そんなに力を入れてのことではなかったから

母も痛いとも言わずに、ただ、殴られた理由がわからない感じだった

でも、私は震えた

私の中に母を殴りたい気持ちなどかけらもなかったのだ

殺したいとは思っていたが

それを実行する勇気はなかった

でも、手は動いたのだ

このままだと、私は無意識のうちに母を殺してしまうかもしれない

さんざん、私に迷惑をかけ、嫌な思いをさせ

そして、全く自分が悪くなかったと楽しそうに長生きしている母

娘を性的な幼児虐待に追いやって、見て見ぬふりをしていた母

それでも、私は実際に母に手を挙げるなんて考えていなかった

不思議なことを数えれば

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「父は昔の人だったからね
妾の家にいついつ来るなんてこと
言うような人じゃなかった
母は父がいつ来てもいいように
僕に家から出るなと言ったんだ
小学生の子供に家を出るななんて
全く無茶な話さ
でも、その頃の僕は母と全く一緒だった
お父さんに会いたかったんだ
お父さんが来る日を待って、お父さんが母のところに置いてある本を
片っ端から何度も読むことが遊びだったんだ

父はね随分後になってから
僕の育て方のことを母に褒めていてんだ
学校なんかくだらないところにやらなくて
本当に良かったって」

「本当に良かったの?」

ミキはそれがよかったなんて
その、父親の妾の子供への
憐みのような気がしたのだが

発達障害の母

母は洗濯物をその日のうちに取り込む

もちろん、それは良いことだが

冬の日、そんなにちゃんと乾かない日もある

そんな日も取り込んできて、まだ乾いてないのに気が付けば

ストーブの前に置くのだ

そのストーブですら私が口うるさくつけるなと言っているもので

各部屋に立派なエアコンが付いているのだ

だいたい、エアコンのいらない部屋にも値段の高いものが設置されていて

電気屋の口車に乗ってかったものだと思うとそれすら、見ただけで私はイライラするのだ

母が洗濯物を抱えているのを見て

私の何かが切れてしまった

不思議なことを数えれば

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ミキは夫がそんな風に考えているのならば
もしかしたら、正しいのは速水のほうかもしれないと
少し思い始めた

「実は僕はね、小学校の間はほとんど学校に行ってなかったんだ」

それは初めて聞く話だ

「母はその頃で言う、お妾さんだったって話はしただろう?
母は全く、ただの女で
取柄もなかったし、仕事もできなかったし
子供を産んでしっかり育てるなんてことには無縁の人だったんだよ

ただただ、父を愛していて
父が家に来る日を待つだけの人だったんだ
そして、父の機嫌を取ることだけが
生きる支えのような人で

父は僕が生まれてからは、すっかり母には興味を失っていたんだけど
僕の顔を見に、一か月に一度くらいはやって来たんだ

発達障害の母

最初はそんな風に思う自分が嫌いで

自己嫌悪にも陥ったのだが

そのうちに、平気になって来たし

母を見ていると、イライラしてきて

そんな風に思うくらい、罰は当たらないだろうと思い始め

爺さんといちゃ一話している声を聞くと

後ろから首を絞めてやろうかと思い始めた

同じ家に寝ている

二階が母で、私は一回に寝ているのだが

夜中に起きて行って横に立って脅かそうか

いや、布団をはいでたまりにたまった文句を言ってやろうか

私はそんな風に変わっていった

不思議なことを数えれば

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え?

ミキは声も出なかった

「だって、君だって世界でたった一人で
他の誰でもないだろう?
速水が幼稚園に入るときに思ったんだ
速水は世界にただ一人の僕らの子供で
そんな集団の中で集団生活の必要性を
学ぶべきなのだろうか?ってね
もちろん、日本に暮らす以上
この国でやったら犯罪になること、人として大事なことは
僕らが教えるよ
ほかのことはその子自身の生き方を子供のころから
まっとうさせればいいんじゃないかとね」

ああ、そう言えば、そんなことを言っていたような気がする

「でも、それで、速水が幸せになるかどうかの自信が
僕になかったんだよ
だから、普通の学校生活に入っちゃったけど
学力だけの問題ならば、学校じゃない方法はいくらでもあるからね」