不思議なことを数えれば

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速水は驚いてミキを見た

「え?おめでとう?」

「そうよ、本当に何よりうれしいわ」

「私、結婚していない」

「そんなことはどうでもいいわ
速水に赤ちゃんができたことが嬉しいし
幸せなことに、赤ちゃんを育てるのに困る環境じゃないでしょう?」

「え?でも、父親がいないってことになると思うの」

「いいじゃない。
うちならば経済的に育てられないこともないし
私は父親にはこだわらないけれどね
あなたも知っているように
ママは自分の母親に苦労したのよ
いっそいなければって、何度も思ったわ
親なんて二人そろってなきゃいけないって言うのは
経済的な問題だけよ」

速水は母の気持ちは嬉しかった
でも、産めるかしら
タケオの子供
速水は生みたいと思った

発達障害の母

ひたすら、母をデスっている自分に

嫌気がさしてくる

もちろん、母が発達障害であったことが

良かったと思えることはたくさんある

まず、他の子供のように

親に勉強しろと言われて、いやいや、勉強する

なんてことは絶対にない

勉強が発達障害の母が中心の家族関係の中から

逃げることのできるただ一つの手段だった

父が母にすべてを侵食されて行く中で

少しでも早く大手を振ってこの環境から脱出するには

勉強で遠くに行くしかなかった

不思議なことを数えれば

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人間性にはものすごく遺伝、血が左右する
ミキは母を恨み、自分の血を呪ったが
子供にどんな血が流れていき
そして、それがどんな作用を及ぼすのか
計算では絶対にわからない

もちろん、犯罪者の血など入らないほうがいいが
想像もつかないほど、そこから素晴らしい人間が
生まれないとは言えないのだ

夫がそうである
そして、康太もそうだし
みぃなんか、あの男に緩いあの母が産んだのだが
今では日本でも有数の富を持ち
そのお金で世界の発展途上国に医療品を送り続けている

何が正解なんかまったくないのだ
ミキの悩みはこの日本の常識という一般人の
くだらない締め付けからだけのものだったのだ

「おめでとう!よかったわね!」

発達障害の母

まぁ、娘としてはそんな母を可哀そうに思って

家の中で歌うことは苦笑いしながら許すのだが

そして、うちの家族は母が下手なことを

はっきり口にするタイプの人間ではない

褒めもしないが・・・・・

そこで母は調子に乗って外でも歌う

他の人間はとりあえず『うまい』と褒める

母はそれを信じて、家に帰って嬉しそうにその話をする

私にとっては聞くに堪えない話だ

それでも、母自身を傷つけないために

本当のことは言わない

ただ、いいとも悪いとも言わずに『へ~』とだけ返す

そして、それがまた、空気を読めない母としては

『すっごく褒められたんだよ』と言い張り

私たちが褒めないのが納得いかず

子供の私に対して

 

「もっと、明るく、思ったことは何でも口にしないと

家族ってそう言うものよ」

 

そんなことを言ってくる

不思議なことを数えれば

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体を重ねていても
それがタケオのどんな思いからかなのかはわからない
ただ、無性に性欲に溺れていたのか
何か嫌なことがあって心が動揺していたのか
そして、速水としては
速水への思いが抑えきれない夜だったと思いたいが
自分が反対の立場に立つことが出来るので
一概にそうだとは言い切れないことはよくわかっていた

その日の体調によっては
ものすごい生理的に受け付けられないような
おっさんに燃えることだってあるのだ

とりあえずは妊娠検査薬をミキが買ってきて
あっさり、妊娠しているとわかった

え?
これは思ってもみなかった話じゃない?
自分ではそう思ったが
ミキは手放しで喜んだ
ミキには最近の外泊の理由が
速水の一番想いの深い男だと言うことはわかっていたから
その男の子供ならどんな人間でもいいと思った

発達障害の母

しかし、度を越した音痴なので聞くのが苦しくなる

しかしそれは、やはり脳の何かかが足りないせいなのだろう

本人にまるで自覚がない

その音階を出せていないことに気が付いていないのだ

このことと、笑いを理解できないことがつながって

母の中の明るい家庭は

音程の外れた歌がいつも漂い、食事中には

笑い声とともに誰かの悪口を朗らかに話す

それが家族の中心にいる主婦たる務めだと

信じて疑っていなかった

不思議なことを数えれば

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速水は最近、少しご飯を食べられない
胃の調子が悪くて、もどしそうになる
そんなことが続いて
ミキは速水の外泊が一週間に一度の習慣になったころ
心配していたことを聞いてみた

「ねぇ、速水
もしかしたらだけど、妊娠しているんじゃない?」

それはないと思う
セックスを仕事にしていたことがあり
タケオはプロの男娼だ
もちろん、二人で会う夜は
いつものタケオの他のお客と同じ仕事ではない
朝までずっと二人でベッドで過ごす
最近はまるで理性もなくしてしまった動物のような二人だが
そんなことにはなるはずはないのだ

それでも、思い当たる夜はあった
あの、タケオの求め方は今までにはなかった夜だった