速水の悩み

銀色の長い髪の毛をミディアムボブの
上品な濃いめの茶色に変えた
ハーミーの時はできるだけ二次元に寄せることで
男たちの後ろめたさを消すように銀色の髪にしていたのだが
二次元に寄せてもその湧き出るような色気に
誰もがおぼれた物だったのだが
その髪の毛を、まず、やめた

服は部屋と事務所、撮影がすべてだったから
だいたい、黒のジャージ
服はわからないから、ママが選んでと頼ってくる

ミキは長いことこの日を待っていたかのように嬉しかったが
少し、トラッドが入っているお嬢様路線の服
それは、ミキが若いころに来たかったブランドで
風俗で働いていた自分なんかが来たら・・・
おこがましい気がして買えなかった服

発達障害の母

お金がなくてバイト三昧の日々

恵子ちゃんと二人、頑張ってはいるけれど

ディスコなんか行けるのは一年に一回がいい所

勉強も大変だし、同じ大学生でも

あのディスコに来てたような

前髪を立ち上げて、まっすぐな髪の毛をなびかせて

ブランド物で身を包んでいるような子たちとは人種が違う

そんな愚痴を言うと

修二は決まって真面目な顔で、少し照れながら

 

「かわいいし、あんな子たちより絶対スタイル良くて

全然、綺麗だよ!」

 

こう、言ってくれるのが待ちどうしくなる

そして、彼の口からぽつりぽつりと

自分の話が出てくるようになった

速水の悩み

ミキは自分が沢村と一緒になるまでの日々を思った
長かった・・・・
それでも、沢村があきらめなかったから
ミキはそばに寄ることすらあきらめていたのに
ものすごく遅くやって来た幸せだったけれど
あれは誰にでもやってくるものじゃない
ミキのような女はたくさんいる
風俗だからと言って、ヤンキーだった女だとか
不良のはてなんかいうのはまれだ
どっちかっていうと、何か問題を抱えていたり
普通の感覚を持っている女が多い
私生活では絶対にそんな仕事をしている女には見られたくないから
地味に暮らしている女が多い
そして、そんな純粋な恋をしている女だってたくさんいる
でも、そこから幸せになる女は少ない

速水の話を聞いて、それは無理だろうと思った

その男の子は速水の本当の姿をよく知っている
そして、今は普通の女の子に恋をしている
いったい速水に勝算なんてどこにあると言うのだ

発達障害の母

長い時間会えるわけではなかった

私がお金がなくて忙しいから、こうやって夜話すためだけに会えても

30分がせいぜいだった

でも、彼は会うと決めたら絶対にその30分のために来ていた

雨の日でも、傘もささずに待っていたりした

恋なんかには全く興味のなかった私だって

いい加減、そんな気持ちになる

それに、絶対、私の話すことを否定しなかった

小学校のころから、本を読んでいても、勉強をしていても

弟の面倒をちゃんと見ていても

母独特の価値観、とにかくじっとしているのは罪

動いて何かしていなければいけない

それが立派な人間だと言う母の価値観から

いつも叱られていた私には本当に素晴らしい時間だった

そのうち、私は修二相手に本音をいつも話すようになっていた

速水の悩み

「だいたい、家に引っ込んだらタケオとの接点なんか
全くなくなってしまうじゃない
そこら辺の普通のお嬢様は、男娼なんか夜な夜な呼ばないよ」

みぃはそこまで言ってはっと口を押さえた

「あ、ごめん!」

ミキが何もかもあきらめているとはいえ
娘のことだ
ちょっと、言いすぎた
みぃはあの家から母に連れ出されて以来
どっぷりと性の商売の世界で生きているから
普通に生きている人間たちに気を遣うのを忘れてしまう

でも、きれいごとじゃない!
だれだって、性的なことは抱えているし
お金で処分できることには普通の人だって
いや、普通の顔をしている人間こそ
えげつなく風俗を利用している

「いいの、わかってるから
そうね、そういうことなんだったら
いつまで続くかわかんないけれど
普通の女の子を持った幸せを今だけでも楽しむわ」

そう言って帰っていくミキを気の毒そうに見送りながら

よく、テレビのコメンテーターや教育関係者が
親が愛情をもって育てないから
若い女の子が自分の裸をさらしたり、体を売るようなことをする
なんて言うが、それは全く間違いだ
もう、刷り込まれたDNAでしかないのだ
それを責めるのは酷すぎる

発達障害の母

それに、修二の手の握り方にはまったく

男女のそれを期待しているような物はなかった

 

「今日は仕事、休みなの?」

 

修二は頷いた

 

「火曜日はいつも休みなの?」

 

「うん。」

 

「ふ~ん、どこに住んでるの?

遠いの?」

 

「ううん、あそこのディスコの休憩室で寝てる」

 

「え?自分の家は?」

 

「もう、そろそろ自立しろってお母さんが言うから」

 

もちろん、ディスコクラブの休憩室で寝起きしていて

母親に追い出されたなんて、今の私ならば

それくらい、アリだし、もしかしたらそんな環境の割には

いいほうかもしれないとは思ったが

その頃の田舎から出て行ったばかりの私には

彼はまるで小学校の頃に読んだ

『長靴をはいた猫』の一番下の末っ子のように感じた

 

速水の悩み

沢田もミキも速水が今、いる世界に喜んで出させたわけじゃない
親としては泣く泣くってところだ
普通になりたいと、家にいて何かおけいこことがしたいなんて
嬉しくて仕方がない
しかし、それはそれで心配でもある
二人とも速水には健康であることと、本人が幸せであること以外は
望まなかったのだが
速水の性依存症を受け入れるしかないと
みぃのところに送り出したのだ
性依存症、実際、普通に治るのだろうか?

いや、それは直すとかそう言うものなのだろうか?
母に苦労したミキにしてみれば、仕方がないと受け入れるしかなかった

速水が料理教室に行っている間に
みぃに何があったのかを聞き出した

「あのね、速水にとっては初恋なんじゃないかな
でもさ、どんなに普通になる努力をしたって
タケオは速水の素晴らしい風俗業界、ネットだけじゃなくてね
そのすごい旋風を知っているんだよ
彼が速水を好きになることはないでしょう?
だって、そいつは自分は女に体売ってるくせして
自分は普通の女子大生か何かが好きらしいから」