速水の悩み

まぁ、高校中退から今までセックスしどうしで
飽きてきたのは仕方がない

「タケオってどこの生まれなの?
東京じゃないよね」

こういう時間は作るなと事務所からきつく言われている
しばらく黙っていると
速水は財布からお金を出して

「延長ってことにして頂戴な!」

この支払はすべてみぃがやってくれているから
どのくらい上げたらいいのかわからないが
その額でよかったのだろう

タケオは事務所に連絡を入れて
帰るときに来ていた不思議な上着を脱いだ
高そうではあるがちょっと、笑いたくなる
一緒に首にかけている薄いマフラーのようなものも
速水の趣味から考えると、驚くほどダサい

「どこで買うの、こんな服?」

「え?変ですか?デパートですよ、高級デパート!」

発達障害の母

恋ちゃん・・・・・

母の従妹の結婚した相手の弟のところの子供だ

こっちに帰って来て

話に聞いたことはあるが、確か、女の子としか知らない

『恋』って名前だってことが印象に残ったくらいだ

田舎ってやつは、だいたい、みんな親戚なのだ

 

「それで、あんたに歌を聞いてもらってから

話をしてもらおうってことになってね

今度の日曜日に遊びに来るって言うから

ちょっと、聞いてあげてよ!」

 

え~!!!!!うちの夫は商業施設のプロデューサーで

その伝手で芸能関係とも繋がりがないわけじゃないが

いい加減にもほどがある

私にいたっては歌のことなんか何も知らないし

全く興味もない

 

速水の悩み

速水のところにカジュアルで来る男はいない
だいたい、黒スーツ
男娼たちの思惑では会社員の匂いをほのめかしたりするほうが
いいかもしれないと思ってる様子だ
速水にとって仕事終わりに買う男は
何でも構わない、清潔でおっさんじゃなければオッケーだ

タケオの言い訳はわかったとしても
決してセンスがいいほうではない
清潔には見える、色が白くて、黒い髪
男娼を本職としている男には黒髪が多い
俳優になりたいとか芸能界を目指しているとかの子は
金髪、茶髪が多い
ホストで使えないやつで男娼になっている男もそうだ

タケオは男娼のみで生活しているのだろう
何となく話がしたくなった
男が好きだからこの仕事をしているし
職場はエロそのものだから、企画を考えるのも
思考回路はどっぷりと性産業だけだ

最近、ちょっと、飽きてきた

発達障害の母

母親にうちの夫の仕事をいくら説明しても理解できない

母がわかるのは小売業の商売人

田舎によく来る、怪しいマッサージ器を売りつける

セールスマン

町役場の職員や地元の公務員

だいたい知り合いは農家、土木作業員、

地元企業で働いているパートさんたち

それがすべてで

その上で企画をしたり、予算を考えたりするような仕事の人は

全くいないから理解できない

ただ、夫の名刺の肩書が

総合プロデューサと書かれているものだから

何となく偉そうだと思っているようで、すぐ、自慢して回る

今日も親戚のおばさんのところにお茶を飲みに行って

ご機嫌で帰ってくると

 

「ね、え、ちょっと、あそこの恋ちゃん、

歌がものすごくうまいのよ!

あんたの旦那のところで売り出してほしいって言うんだけど」

速水の悩み

タケオを横目で見る
少し顔を赤くして、焦りながらグラスを二つ用意している
この世界のノウハウはすべて知っている
この世界の女と恋に落ちるすべも知っている
でも、いくつなんだろう?
どうして、この仕事に入って来たのだろう?

もう、数十人、いや、百人近くこの手の男を知っている速水は
不思議そうに考えた
東京の出身じゃないな
服がダサい、それなりのお金をかけて決めてはいる
それは事務所に口うるさく言われているはずだ
お金持ちの女たちやおばさんを相手にするのだ
きちっとお金のかかったものにするか、おばさん相手ならば
カジュアルなものでもさわやかなものを
そう言われているはずだ

そのさわやかさがダサい

「その服、自分で選んだの?」

真っ赤になった

「あ、その、今日は違う予約が入っていて
急にあなたのところになったから....」

ハーミーは笑い出した

「ああ、金持ちのババァって言われてたのね
それが急に私になった
最初から私ならスーツにしたところなんだね」

発達障害の母

どっちにしろ、私の従妹の子供は

この村や町出身子は大学に行く気はない

いや、行けないと言ったほうが正しい

将来に何の心配もしていないのだ

なりたい職種がなければ、高校を出てアルバイト代わりに

女の子なら近くのうどん屋なんかの飲食店で働き

男の子は工務店や石材屋で働く

数年働きながら、彼氏、彼女を見つけて年頃になれば

結婚をする

親は教育費はろくに出さないくせに結婚式の費用は

しっかり出してやるそして、農家を継ぎ、まだ親が元気なうちは

今までの仕事を続ける

何と理想的な襲名制度だろう

歌舞伎界よりも完璧だ

そこにはスキルはいらない、普通ならいいのだ

その代わりに楽しいことは少ない

達成感ってやつを感じることはあまりないからだ

だから、やたら、恋愛が変形してくるのかもしれない

 

 

速水の悩み

速水もそんなことは十分わかっている
そんな風にひっかけてくるこの手の男なんか山ほどいる
それでも、無視できなかったのはなぜだろう?

「ちょっと、まって!
少し飲んでいく?」

仲間の話からハーミーは終わった後、相手の男を見もしない
と聞いていた、ぐずぐずしていると
すぐに事務所に電話されるって話も聞いた
自分の思ったとおりにちょっと、反応して
飲んでいくなんて言ってくれるなんか思いもしなかった

そうなると、本当にどぎまぎしてしまう
これがタケオの売りでもあった
おばさんたちからはいつまでも純情無垢なタケオちゃん
と呼ばれて人気はあった

「あ、はい・・・・」

そう言いながら椅子に座った。
しかし、飲み物の用意をしているハーミーを見て
慌てて立っていくと

「手伝います!」

そう言ってグラスを持つ