ミキのママ友

優人は今まで母のことなど
考えたこともなかった
言うことを聞かなければならない
それは刷り込まれていたが
母を尊敬するとか
母を好きだとか
母が一体どんな人生を歩いてきたのかとか
全く興味がなかった
そう言えば、母のほうの親戚には会ったこともなかったが
そのことに疑問すら抱かなかった
ただ、父のような人生を望むロボットのような人だと思っていた

コーヒーを淹れると
殿村は自分の人生を産まれた時から話し始めた

「え?中卒だったの?」

嘘のような話だ、興味はなかったが
どこかの女子大出身だろうと勝手に思っていた

「え?お爺さんって犯罪者?」

ものすごく完璧主義で嫌な母親だと思っていたのに
そんなことがあったなんて
それは最悪な話でもあったが
優人はホッとしたし、ハーミーの話も
初めてやりたいことに出会った気がした
そして、真実を話してくれた母を好きになっていた

発達障害の母

そんな真面目な子

いったい、どうして妊娠なんてことになったんだろう

朝晩、ゴミ出しのときなんかに奥さんには会うが

全く気が付いている様子ではなく明るく、元気だ

田舎の婆さんたちは悪いところはすぐに探し出し

やたら噂を振りまくが、手を出そうとはしない

田舎は近所付き合いが深いなんて言うが

手作りの食べ物、多く作った野菜、もらいすぎた物

近所に配りまくることはあるが

実際は相手の不幸を喜びながらの

優越感であふれていたりするのだ

今回もことがことだけに、入り込みはできないが

本気で心配なんか誰もしない

私は従妹の子やなんかに高校でのあの子の様子を聞いてみた

ミキのママ友

優人は我を忘れて飛び出してきた
殿村は優人を台所のテーブルに誘った
そして、久しぶりに優人にコーヒーを入れながら
ミキが速水のところに聞いてくれて
使えるようならマネージャーになってほしいと言っている
そう言うと
優人は心から嬉しそうに

「死んでも頑張るよ!」

殿村は優人がこんなにポジティブに話すのをはじめてみた気がした

すぐにミキと連絡を取り
明日にも速水と会わせてくれるという

「あ、でも、母さん、本当にいいの?」

優人にしてみれば
母親は何より世間の目が大事で、父のように
まともな人生を送ってほしいと願っていたはずだと
誰よりも知っているのだから
母がこの仕事に就くことを反対しないのが不思議だった
優人の中では母親は子供に過度に期待している
世間知らずのお嬢様だった

発達障害の母

ショートカットの黒い髪の毛

田舎の二流の高校の子なんかほとんどが髪を染めている

真っ黒の髪の毛で化粧っ気がない

今は女の子も都会の高校生並みに化粧しているのが普通だ

スタイルもよくて顔もアイドルよりいい子もたくさんいる

でも、その子は少し小太りで昔の女子高生だ

毎日、夜の二時ごろまで部屋に明かりがついていて

そこのおばあちゃんがうちの母に自慢するには

 

「あの子は勉強がよくできてね

東京のいい大学に行きたいって頑張ってるんだよ

その時はさ、学費はばあちゃんが出してやるって

約束してるんだよ」

 

それを聞いた母は私に

 

「東京のいい大学なんか無理に決まってるよ」

 

そんな風に嫌そうに話してくれた

こういうところだ

知的にかなり低いからと言っても

意地悪なところはちゃんとあるのだ

 

 

ミキのママ友

もう、長いこと引きこもっている
最初は心を込めて作った食事を扉の前に置いたり
カウンセラーを呼んでみたり
いろいろやってみたのだが
トイレに行く時、そして夫婦が寝静まってから
フラっと出てきて
近くのコンビニに行って買い物をするか
シャワーを浴びるか
ネットでハーミーグッズを買ったりしている
お金はまだ持っているようだ

中卒で苦労した殿村はわけがわからない
夫のほうが坊ちゃん育ちのせいか
あまり何も言わない

「優人!ちょっと、話を聞いてくれない?」

だいたい、ヘッドホンをつけて生活しているし
親の言うことを聞くなんて考えてない
少し強めにドアをたたく
中からガサガサと音がする

「あのね、ほら、幼稚園の頃
速水ちゃんっていたじゃない
あの子がね、ハーミーなんだって!」

あっという間にドアが開いた

「やっぱり!
そうじゃないかと思っていたんだ」

発達障害の母

専門学校に上がる子はほとんどが美容系

もちろん、それなりにモチベーションを持って

頑張ろうという子もいないわけじゃないが

ほとんどがどうしようもない子

就職する子はまだいい

都会でバイトをしながらのニートもまだいい

田舎でニートを決め込もうとしている子たち

親も子供の将来を真剣に考えてはいない

女の子なら嫁にやればいい、男の子なら

農作業でもやってくれれば立派なものだ

親も大学行くお金がいるなんて言われた日には

貯金を十分持ってはいても、いやで仕方がない

 

『大学行ったからって、いい仕事に就けるわけじゃなし

大学なんかいいとこ行ったって、レイプ事件なんか起こす子が

いるんだからね~』

 

だいたい、そんな考えだ

あんたんとこの子はそんな心配しなくても

一流大学なんか合格しはしないって言いたいくらいだ

 

でも、その女の子は違っていた

ミキのママ友

「さすがね!
私、あなたのそういうところ初めて知ったけど
すっごく友達になれそう!」

「え?」

「私たちは子供のことで失敗しても
今の家庭で失敗しても
実家は頼りにしない
何とか、先に進むのよ
まぁ、頼りになる親も実家もないしね」

殿村は笑い出した

「確かにね、とにかく、速水の仕事関係
紹介して頂戴」

ミキはみぃに連絡を取った
仕事はたくさんある
今はマネージャーが能力ないやつだから
連れて来てみて、使えれば即、採用だという
その話を聞いて殿村は帰って行った