康太の深淵

やっぱりそうか!
康太は少し納得したが
父親にそれで困ってますとは言えなかった

「そうですか
いえ、ミツホはよくやってくれています」

そう言って別れた
康太は少し考えて
本屋に寄った
参考書があれば、すべてを決める母親がいれば
ちゃんと大学に合格できたのだ
そう思うと家事の指南書を数冊買った
そして、家計簿

それを見せるとミツホは大喜びで
むさぼるように読み始めた
そして、次の日から
朝ご飯は結婚して初めて
白いご飯に味噌汁、鮭、ノリ、生卵
マニュアル通りの朝食が並んだ

発達障害の母

もう、人にアドバイスなんかできる立場になんかない

そんな思いに駆られて、そのあとの話は上の空だった

 

「あの、問題は学力なんですけど・・・・・」

 

「ああ、それは、やっぱり塾にやらないと

ほら、ここから車で45分のあの市なら

そういう塾もあるから、まぁ、送り迎えは大変だけど

親が教えるよりもそのほうがいいと思うよ

ネコも恵子ちゃんも中学受験の勉強はしたことないでしょう?

ちょっと、特殊なところがあるからね」

 

そこまで話すと、私はそそくさと席を立った

恵子ちゃんはありがたそうに礼をしてくれる

それが、また、つらかった

康太の深淵

「康太君、遠慮なく言ってくれていいんだ
妻もミツホが生まれるまで、不妊治療で苦労したし
二人とも年を取ってから生まれたから
かなり過保護に育てたと思うよ
まぁ、そこは許してほしい

ただ、それだけじゃないんだろう?
妻には言えなかったが
ミツホは少し知的障害があるんじゃないかと
私は考えることがあるんだ
いや、もちろん、学力は妻が1歳の時から横について
九九をささやいたり、漢字を覚えさせたり
眠る前にはひたすらことわざを話したりしたから
普通以上なのだが
それを応用する能力はなさそうなんだ

私はひそかに就職したらそんなミツホの弱点が
すべて露呈すると思っていたのだが
君が卒業と同時に結婚してくれるって言うんで
心からホッとしたんだよ」

発達障害の母

帰って来て久しぶりに母に会い

発達障害なんてやつは本人の努力の他なのだから

仕方がない、母の人格とは別だ

何度そう、言い聞かせてきただろう

今度もまた、私はそれは母のせいではないと

心に言い聞かせながら

恥を飲み込んだ

 

「そう、えっと~、そういうことがあるんじゃ

樹奈ちゃん、この村から離れた中学のほうが絶対いいわね」

 

私はここに来るまでに言おうと思っていたことはすべて飲み込んだ

あの程度私立の中学なら

わざわざやらないで、ここで恵子ちゃんが丁寧に

勉強や生活を見てあげたほうがいいよ

そう、言うつもりだった

しかし、こんな環境、やはり早く出たほうがいい

私は16でこの村を出たからこそ

なんとかここまでやってこれたのだ

康太の深淵

すると、父親の方が
一人で追いかけるように

「あ、そこら辺でお茶でもどうだい
あいつがいると話はできないからね」

そう言って誘った
康太は驚いたが一緒にコーヒーを頼むと

「何かミツホに不満があるんじゃないかね?
私はミツホは可愛いが
まぁ、ちょっと、普通じゃないというか
妻も少しそういうところがあってね
自分がいいと信じたこと以外は
聞く耳は持っていないから
妻の前でこの話はできないのだが」

康太はミツホの様子をなんと言っていいか
困ってしまった
いや、学力は普通以上だから
金銭的な計算や漢字なども書けるし
生活する上で困ることはない
ただ、自分がイライラするのだ

発達障害の母

あ、父は何年前に亡くなったんだっけ?

すぐにそう考えた

ああ、そう言えば母が

今の私と同い年くらいの歳だ

それから、ずっと一人


この二人の話方や目つき

そして母の私が子供の頃

父以外の男の人や若い男に対する態度

もしかしたらそうなのかもしれない

その淫乱ババァの中に母も入っているのだ


私はかろうじて体制を立て直して


「あ、そうなんだ

それで、誰も問題視しないんだね」


なんとかそれだけ言って

母が一範って人のことを話した時のことを

思い出した


もう、私は母の全てを許す気でいたし

すっかり許していると思っていた


親戚が集まる飲み会

母は父以外の男のたちに

お酒を持ってついで回る

もちろん、気の利いた女の人は誰もすることだ

でも、そこに女の匂いを小学生ながらに

感じたものだ



発達障害の母

「あ、それは.....」


村のことなら私もこの村出身だ

東京なら警察沙汰になるようなことも

昔から知ってるからとか

あの人はお金があるから

村で何かあった場合はなんとかしてくれる

なんて理由で事件にはならないこともある

そういうことを振り回すような

正義感なんか全く持っていない


「大丈夫!私は何を聞いても驚かないから」


そう言ったが、それでも話そうとしない

すると、マスターがコーヒーを置きながら


「あ、それは、言いづらいだろう

あとは僕が」


そう前置きすると


「一範の相手は若い女の子だけじゃないんだ

いや、若い女の子に一範が行くときは

よっぽど日照りになった時で

村の好き者のおばさんたちが

こぞって一範の若い体を貪ったんだ」


「え!」


「それも70過ぎたばあさんもね

一範は女ならなんでもいいんだから」


困ったような顔をする恵子ちゃん

最初、私はま、あそんな話くらいは

私にとってはまぁ、あるかもしれない

レベルのことだと考えたが

目を合わせようとしない恵子ちゃんを見て

ハッとした