発達障害の母

雅ちゃんの妹の立派さや

夫が外で作った子供を文句も言わずに引き取った

母親の心の広さもすごいが

その妹より嫌われていた雅ちゃんもかわいそうな人だ

最後は神社で首をくくったというのも

わかる気がした

皆、雅ちゃんの旦那とみっちゃんの後家さんの赤ちゃん

雅ちゃんの妹の出奔なんかに夢中で

彼女のことはすっかり忘れている

 

「そうだったんだ、それで、ネコは見つけられたの?」

 

「いや、ネコもかなり時間を割いて探しているらしいけど

ぜんぜん、わかんないって」

 

「でも、見つけないほうがその妹にとってはいいんじゃない?

その妹がいなくっても、雅ちゃんちはやっていけるんでしょう?」

 

友くんはちょっと、困ったように

 

「そりゃぁ、今はね

でも、あそこの親も90近くになってくるから

だれか一緒にいないと、きついんじゃないかな」

 

口調がいつもの友くんではない

その歯切れの悪い感じ、ちょっと、気になった

発達障害の母

「俺たちもびっくりしたさ

あそこの父親がよそで作った子供だって

突然連れてきたんだよ

ほら、あそこの父親ってよく、県庁のある街に

遊びにいってただろ

あのあたりの飲み屋の女に

生ませたらしい

あの妹が中学生の時に、その母親ががんで死んだって」

 

この村にはまともな普通の家庭なんて一軒もないのだ

皆、何かを抱えている

そして、案外、そういうことを受け入れているのだ

 

雅ちゃんのお母さん、偉かったんだね

雅ちゃんと妹が差別されているなんて

聞いたこともなかったから」

 

「そりゃあ、俺らみんな、うんざりするほど

雅ちゃんには悩まされていただろう

あんなに性格の悪いわが子よりかわいかったんじゃない

結局、結婚もせずに雅ちゃんが出て行ったあと

家で、何かと親の面倒を見たのは妹のほうだったしな」

発達障害の母

「みんな心配してるんだよ

出稼ぎって言ってもお金も送ってこないらしいから

ネコはあそこの親に探してくれって頼まれているのさ

連絡もしてこないらしいし」

 

雅ちゃんの妹はここで何度か見かけたことがある

雅ちゃんに似ていたが、もうちょっと、常識もあるように見えた

中学までの間に会った記憶が一つもない

ネコの奥さんの恵子ちゃんみたいに美人じゃなくても

五つくらい下まで、狭い村だからよく知ってるはずだ

 

「ねぇ、私、雅ちゃんの妹の記憶が全くないんだけど

なんでだろう?そんな離れてないよね?」

 

「ああ、あ~ちゃんは知らないはずだよ

雅ちゃんの妹は中学の時に突然現れたんだよ」

 

「え?どういうこと?」

発達障害の母

「最近ネコは?」

 

ネコもこの村の農業に忙しい時期には

ここでコーヒーを飲んでいる場合ではないのだろう

 

「ああ、今、東京に行ってるよ

うちの村の特産品を置いてくれる店を開拓に

行ってるんだけどね

なかなか、大変そうだよ

今時って、どこも着ぐるみとか作って頑張ってるからね

うちは予算ないし、みんな、なんでもかんでも

反対するんだよ

ネコ、一人で走り回ってる」

 

「そっか、大変だよね」

 

ネコはやはり代々村長の家の息子だ

 

「そういえば、雅ちゃんの妹

東京に出稼ぎに行ったんだぜ」

 

「え?あの家はもちろん、お金はないとは思うけど

家の周りに食べるくらいの野菜やお米は作ってるでしょう?」

 

それに、親の年金があれば贅沢しなければ

わざわざ、東京に出ていかなくてもいいんじゃないか

そう思って驚いて友くんを見る

 

発達障害の母

久しぶりに友くんがコーヒーを飲みに来ていた

手広く農業をやっている彼は忙しい時期は

コーヒーを飲みに来ることすらできないくらいに

大変らしい

 

「久しぶり!忙しそうね」

 

「いや、人手がないからね

長いこと手伝ってくれていた人たちは

いいかげん年取ってきたから

力仕事はもちろん草むしりすら大変だし

若い奴は肉体労働はしないからね

まぁ、絶対数も少ないけど

家族で目一杯やるしかないから

息子の嫁とかがかわいそうだよ」

 

「そう、でも、お舅さんが優しいから

うまくいってるんじゃないの?」

 

友くんは嬉しそうに

 

「まぁな!しかし、孫がなかなかできないから

母ちゃんが気をもんでさ

梅雨が来て、ちょっと、暇になったら

ハワイにでも若い者二人で行かせよう

なんて言い出して、そのための貯金だとか言って

俺の小遣いへらしやがった」

 

そんなことを嬉しそうに話す友くんは平和だ

 

発達障害の母

母が発達障害であるのは間違いない

子供たちの幸せのために何ができるかと考える

キャパがないのは仕方がない

何かと覚えられないのは仕方がない

おいての心を読んで忖度できないのも仕方ない

そうどんなに思っても、どうしてもいらいらと悔しい思いになる

 

そして、そこがこの村独特のそんな空気とあいまって

もっと、母やこの生まれた土地がいやになる

 

母は乏しい知識をこの村ですべて手に入れている

それならば、母のやっていることはこの村的には

正しいのだ

母の出て行った玄関を見ながら

今の世の中でこんな世界がまだあったことに愕然とする

まるで2チャンネルのように閉鎖されたような社会

しかし、2チャンネルと違うのは、そこに知性のかけらもない

ということだ

 

すぐに東京に逃げ帰りたい

ここには二度と戻ってきたくはない

そう思うだけ思ってあきらめた

やはり、母は一人にはできないから

発達障害の母

母はそんな私の言葉など全く聞く気がないようだ

 

「だって、なんだか、テレビの中の人たちみたいじゃない

今度生まれてくる子供もドラマの中の子みたいだし」

 

そう言いながら嬉しそうに持って行く

あ、そういうことかと納得する

村では誰もが貧しくて、そして、変化はほとんどない暮らし

誰もがお互いを見張りあっているようで

何かしでかせば、徹底的に叩かれる

でも、そこには村にいられないほどのいじめはない

蛇の生殺しのように長いこと小さな声で言われるだけだ

それは貧しい仲同士の暇つぶしのようなものだ

雅ちゃんの旦那とみっちゃんの後家の話は

かなり背徳感張るけれど、それを相殺するほどの

お金が見える

そこが村の人たちの心のどこかに

浮き浮きしたしまうような楽しさも運んできたのだ

もしかしたら雅ちゃんが旦那に殺されていたりしても

誰も、そこは口をつぐんで知らぬふりをするのだ

そしたら、いつかは自分たちも

彼らの財産のお相伴にあずかれるかもしれない

そんな期待を込めてみんな、彼らの家に足を運ぶのだ