街の灯り
発達障害の母
母が後家は妊娠していると言っていたことを思うと
そりゃぁ、早く一緒に住んだほうがいいだろう
雅ちゃんの旦那は、みっちゃんちの豪邸から仕事に通い
その、旦那の母親は鼻高々で自慢しまくっている
二人が結婚してすぐに、その母親にハワイ旅行を
プレゼントしてくれたとかで
多くの村の人間はうらやましいと心から思い
雅ちゃんのことなどすぐに忘れていった
あの、神社も何事もなかったかのように
子供たちが集まって遊んでいた
そのうち、後家さんのお腹は隠しようもなくなって
誰もがおめでとうとみっちゃんちに
野菜や肉、そして、その家々で自慢の料理を持って行った
母も自分が得意な、いや、自分だけが得意だと思っている
鶏の煮つけを持って行くと言い出した
「ねぇ、やめとけば
あそこなんてお金はたくさんあるんだから
何もわざわざ持って行かなくても大丈夫よ」
いま時ならば、この田舎でもアマゾンや楽天市場で
どんなものでも手に入るのだ
日本全国のおいしいものが手に入る家に
一生懸命に貢物を持って行く村の人たちにあきれていた私は
母にきつく言った
発達障害の母
その父も弟が大学を卒業するとともに
がんで亡くなった
気の小さいまじめな人だったから
母のことでは結婚以来相当なストレスを抱え込んでいたのだろう
ネコが
「おじさん、いい人だったよな
俺、子供の時に川で釣った鯉をもらったよ」
友くんはネコのその言葉に
「ああ、そうそう、俺んちもよくイノシシの肉もらったよ」
「そうね、趣味がそういうことしかなかったから
雅ちゃんちのお爺さんに教えてもらったんだって
あそこのお爺さんも近所中にイノシシの肉とか鮎とか
配って回ってたよね」
「うん、俺んちはたまにだったけど
村長のネコんちとかみっちゃんちの病院には
真っ先に持って行ってたよな」
すると、友くんが声を潜めて
「みっちゃんの後家、すぐにも雅ちゃんの旦那と
暮らし始めるらしいぞ、なんか、すげえよな」
この村ではみっちゃんの奥さんはずっと、みっちゃんの後家と呼ばれる
雅ちゃんの旦那と結婚するのならば呼び方を変えてあげればいいのに
街の灯り
発達障害の母
友くんがおっかぶせるように
「頭も悪けりゃ、才能もないし
顔も悪けりゃ、性格もダメ
だから、心配なんだよ
家を継げば苦労しなくても
とりあえず食べていける
親がやったとおりにしてればな
それがこの辺の爺さんや婆さんの考えさ
まぁ、今はそれじゃ先細るだけで
親の言うことを聞いて、家を継いでも
才覚がなけりゃやっていかない」
そうだ、この村はそんな風だった
「うちはもう、母でおしまいだけどね
弟と私が家を出て東京にいくことを
反対されなかったのは、父のおかげだわ」
「まぁ、あ~ちゃんちは特別っていうか・・・・」
そうだ、この村では特別だったから
姉弟二人とも都会に出て好きにできたのだ
父は母と結婚した責任を取るつもりで
すべてひっかぶってくれた
母のことで何か言われて私や弟が落ちこんでいると
『すまんな・・・・』
私たちが落ち込んでいることなんか
まったくわからない母に代わって父がぽつりと言ったものだった