そうだ、じいちゃんは陽気な女好きで
母親はその父親に似ただけなのだろう
ただ、女だから色々と人に言われるし
自分たち、子供も好きにはなれなかったのだ

「お母さん、じいちゃんにそっくりだったね」

そうミキが言うと
康太も

「うん、顔も似てたしね」

姉さんもと言いそうになって
口を閉じた
じいちゃんは結構なイケメンだったから
遊び人だったけれど、女の人がほっとかなかったらしい
母親も今、考えたら美人ではあった
ミキは康太の飲み込んだ言葉に気が付いて

「私もね似てるって言いたかったんでしょう?
康太は真面目なお父さんにそっくりだしね」

発達障害の母

遅く帰ったりすると

母が自分で私の分も料理を作ってくれている

年を取ると自分で料理しなくなるから

できるだけ自分でやって自分で食べるようにしたほうが

認知症対策にもなるなんて話は知っているが

母の料理はまずい

猫舌の上にまともに字が読めないから

大体の感覚で作る

今もテーブルの上に電子レンジで温めた餅を

インスタントのお吸い物と混ぜて

ゆで卵が入れてある

いや、これは本年齢の行った人が一生懸命作るのならば

好感が持てるし頑張っていると褒めるべきなのだろうが

母は私が子供の時からこの手の料理しか作らない人で

せめてインスタントのお吸い物の

お湯の量は書いてある指示通りにしてほしいのだが

適当に入れるから味はもはやしないのだ

それでも、お礼を言って食べ始めると

「今日は村長さんが一緒だっただろう?

さっき、つうちゃんが来て

喫茶店の前に村長さんの車が止まって立って

話していったよ」

つうちゃんというのは母の姉の子供で

私にとってはいとこなのだが

私は彼女が大嫌いなのだ

発達障害の母

ネコは困ったように笑って

「だからさ、うちの父ちゃんが

やたらハワイ行ったり、株に手を出したりして

一度、うちは破産したんだ

じいちゃんは首をくくって

父ちゃんは行方不明!」

 

「え~!!!!

ほんとにそんなことになってるの?

ネコは今、何してんの?」

すると、友くんが

「ネコはやっぱり、村長をしてるんだぜ

そうなった家を立て直して

農協に入って村の農業の発達に頑張ってくれて

東京にここの村の出店があるんだぜ

村の動画を作ったり、ほYouTubeってやつとか

だから、結構、この店もドライブ帰りとかで

寄ってくれてるよそ者多いだろう?」

 

ネコは照れて笑っていたが

本当にその苦労は一方ならぬものがあっただろう

あの頃と少しも変わっていない

ネコの話を聞いてうれしくなった

「え?いくらだったの1万円?」

あの頃、千円も入れてくれていれば
十分だったまわりのひとたちだったのだ

「ううん!50万円!」

「え~!!!!」

「もちろんすぐお返ししたわよ
でもね、一人ぼっちで寂しい暮らしを
うちのじいちゃんがすごく楽しいものに
してくれたから、お金、これでも少ないんですって言ってたわ
じいちゃんから朝、電話があって
みぃの面倒を見に行ってた日々は
毎日に張りがあって楽しかったんですって」

「ハハハ!じいちゃん、口がうまかったからな
電話とか横で聞いてたけれど
優しいとか美人とかうまいことペラペラ
話してたよ
でも、あのお婆さん、みぃの面倒を見てくれて
絶対、僕にもおやつ買って来てくれてた」

そんなことを話していると
自分たちが思ってたより
いいところもあったものだと
あの頃を振り返る

二人はただただ、普通の人間になりたい
そう願って一生懸命努力した日々を
もう、終わりにしたいと思った

どう抗っても
母は母なのだ

「ほら、じいちゃんがものすごい婆さんを連れて来て、みぃのお守りをさせていたじゃない?
あの、お婆さんって実はすごい
大金持ちだったんだよ
じいちゃんのお葬式の日
娘の母さんさえ帰って来なくて
お金もなくて大変だったのに
封筒に入れてくれたお金
いくらだったと思う?」

あの頃、康太とは話すのも嫌だった話を
したくなった
今考えれば、そんなに悪い話じゃない

発達障害の母

そして、誰が考えてもやりそうにない

ネコが僕がやりましたと手をあげて

その次の日お金を持って来たのだ

でも、結局、それはミナの仕業だったって

すぐにわかったのだ

ミナが村の雑貨屋でお金を使っているところを

誰もが不思議に思っていた

ミナの家は親がケチで有名で

子供に小遣いなんか絶対渡さないからだ


教師もネコが手をあげた時から

よくわかってはいたのだが

本人がそういうのならば仕方がない


ネコは村長の家の子供だったから

お年玉もたくさんもらっていたし

爺さんは孫にも派手にお金を使わせて

豪勢なところを見せたいのだ

爺さんは後からその話を聞いて

猫を偉い褒めて

一万円もネコにあげたらしい








康太は少し躊躇したが
姉にはなんでも話すから
そして、姉ならばわかってくれるだろう
ミツホを責めたりしないだろう

実は.....

話しを聞くと
ミキは

「ミツホさんも辛かったでしょうね
向こうの親御さんは?
大丈夫だったの?」

「いや、ただただ、気の毒がってたよ」

普通じゃないことに
慣れない自分たちが悲しくなる

「もう、忘れたほうがいいのかもね
普通じゃないからこそ
みぃも速水も好きな道で
莫大なお金を手に入れてるのよね」

「うん、この間、速水の事務所が
莫大なお金を地震の被災地に送ったっって
ニュースになってたしね」