そんな風に心で悩みながらも
あっという間に女の子が生まれた

仕事が立て込んでいたのもあって
生まれたと言う連絡をもらって
少し遅れて駆けつけると

部屋の前でミツホの両親が
康太を前に正座した
無事に生まれなかったのだろうか?
何があったのだ
ミツホは元気なのか?
そう思っていると
ミツホの父親が

「康太さん、申し訳ない
ミツホがしでかしたことを
私たちが謝ってもすむことじゃないが
離婚は覚悟しているので
このまま、引き取ってもらえまいか」

母親も涙ながらに
すみませんと言うばかりだ

「いや、一体どうしたんですか?」

わけのわからないまま
できたらミツホに会いたいと言う

発達障害の母

「だって、うちなんか.....

さっきの農協の男の子の親

あの彼が性に合ってるレベルだったんだよ

まともな家の男の子とは

付き合えるとも思わなかったよ」


「そうか、まぁ、俺は違うけど

それに、みっちゃんも違ってたぞ

中学の頃、本の話や

難しい数学の問題

そんな話ができるのは

あ〜ちゃんだけだって喜んでたのは

ただ、それだけじゃなかったからさ」


「友くんのかいかぶりだよ

中学の頃だってみっちゃん、モテてたじゃん

一つ下の可愛い子と噂あったし」


「いや、あれは相手が積極的だっただけさ

みっちゃんが結婚する前の日

俺ら仲間で飲み会やったんだけど

俺の横で『あ〜ちゃん、結婚したんだよなぁ

俺、学生の時に東京のあ〜ちゃんの下宿まで行ったことがある』」

速水が高校を唐突に辞めて
みぃのところに行ったことを思うと
なんとなく、わかる気がした
みぃが早い時期からやっていたこと
今ではその世界でも有名な人間であること
そこにやらなければならなかった
ミキの気持ち

姉と教授にすらそんな娘が生まれるのだ
うちに生まれないって保証は一つもない
子供なんていらない
お金も名誉も地位もなにも欲しくはない
一般的な普通の家庭
それだけを渇望して生きているのだ

姉だってそうだ世間の隅でひっそりと
生きていこうとしていたのだ

いや、もちろん、
教授は偏見など一つも持たないだろう
ミツホだってそうだ
それを文学だとか言い出すに決まっている

でも、それならばそういうことを実家の両親に言えるのかって話だ

発達障害の母

雅ちゃんとそこの強欲婆さんの話は置いといて

私はみっちゃんの話が聞きたかった


「みっちゃん、頭、良かったし

性格も良かったのに

やっぱり医者の不養生?」


すると、友くんは


あ〜ちゃんに会いたかったと思うよ

あ〜ちゃんがあの大学行く前の春休みに

あいつの追っかけをしていた時に

一番、さみしそうで心配してたのが

みっちゃんだったからなぁ

あ〜ちゃんも少しはみっちゃんのこと

想っていたんだろう」


私は心から驚いた

みっちゃんは私なんか歯牙にもかけていない

そう思っていた

村ではうちは、少し下のような目で見られていた

父は一生懸命だったが

村の人は残酷だ


父が村のためにどんなことをしても

私が勉強がどんなにできても

まともに相手はしてくれない


だから、村で一番の王子様である

みっちゃんなんか私からは

そんな対象に想うのも恐れ多い男の子だった



ミツホは結婚したときに
康太が初めてだった
だから、なんとなく妊娠しないように
気をつけてきたつもりだった
だからと言って、避妊具をつけたりしたわけではないから
確実とは言い切れないのだが
康太は母親のような女の子が生まれるのが
怖かった
ミツホに似た女の子が
いや、もちろん、男の子でもいい
自分に似た子供ができたときに
母親や祖父に似ていたらどうしよう
それが怖かった

父ににているのは構わない
愚鈍な人だったが真面目で
ひたすら母を見つめていた
でも、そうじゃなかったら.....

そんなことを結婚してから
ずっと考えていた

そして、速水のことだ

発達障害の母

それから友くんは

私が行くくらいの時間を

見計らってコーヒーを飲んで待っている

ちょうど、その時間が農作業の

休み時間でもあるらしい


「ねぇ、あの星田のみっちゃん

あの人死んだんだって?」


すると、昨日の村の女たらしだった

彼の話とは全く別人のように


「ああ、そのことか.....」


そう言ってしばらく黙った


「ここに帰ってきて、雅ちゃん

一番に会ったのよ

そしてら、そんな話を聞いたから」


雅ちゃんか、そう言えば

夜になるとここで飲んだくれているんだって

マスター?」


友くんがマスターに話を振る


「ええ、まぁ

最近は妹さんが迎えにくれば

大人しく帰りますけどね」


「ああ、慰謝料をもらうためとか

噂になってるよ

雅ちゃんに裁判にかける勇気はないだろうし

あそこの婆さんが一円でもだすもんか」

「え?」

康太のその返事はただ驚いたように
聞こえたが
その中に否定が混じっていたのを
ミツホは聞き逃さなかった

今まで康太が子供はいらないというのを
聞いたことはなかったが
欲しいとも言わなかった
それは長く子供ができなかった
ミツホに対する思いやりだと思っても見たが
やはり、それは違っていた

「産んじゃだめかしら?」

康太はそんなことを言えるわけがない
そう思いながら
普通に笑顔で

「いや~よかった、楽しみだよね
体を大切にしなきゃな」

そう言って嬉しそうな態度をとった
康太は心から喜んでいるふりをしながら

どうしてだろう?
いや、絶対に生まれないとは言えないが
生まれないようなセックスをしてきたはずだ